子育て中の親の悩みが幸せに変わる「29の言葉」を紹介した新刊『子どもが幸せになることば』が、発売直後に連続重版が決まり、大きな注目を集めています。著者であり、4人の子を持つ田中茂樹氏は、20年、5000回以上の面接を通して子育ての悩みに寄り添い続けた医師・臨床心理士。

本記事では、子どもを「怒る」ことと「叱る」ことはどう違うのか、お伝えします。(構成:編集部/今野良介)

怒る親は「取り乱している」

なぜ「怒る」はダメで、「叱る」がよいのか?

これは、多くの育児の本で語られていることですので、聞いたことや見たことがある人も多いでしょう。

「怒る」というのは、目の前の出来事を受け入れられない、現実を受け入れたくないという混乱です。「取り乱している」わけです。

子どもが何か望ましくないことをした場合に、「怒る」という反応は、親が混乱している自分をそのまま出してしまっている状態と言えます。「こわい」「困った」「つらい」などの感情が、言葉だけでなく、声の大きさや、表情などで表されています。

 

「叱る親」は、カッコいい。<br />「怒る親」は、どうですか?<br />怒りは「取り乱している状態」

 

一方で、「叱る」というのは、良い意味で感情が入っていません。「あなたのしたことの、ここがこういうふうによくなかったよ。その理由は、こうだからだよ」。そうやって「冷静に伝える」ということです。

このとき、お説教が長くなりすぎないようにしましょう。ほとんどの場合に、短いほどよいです。くどくどと話すのは逆効果です。たとえば1分でも長いでしょう。自分が大人から説教されたときのことを思い出してみてください。

なぜ、叱るほうが望ましいのでしょうか。

伝えたいことが、しっかり伝わるというのはもちろんです。それ以外に、少し大げさに言えば、「暴力を否定する姿勢を子どもに伝えることができる」という点があります。怒って感情に任せて、怒鳴って、小突いて、相手にいうことを聞かせる。親はそれほどとは思っていなくても、子どもにしてみれば脅威です。そんな大げさな、と思うかもしれませんが、親の気づいていないうちに、子どもが深く傷ついてしまうことがありえます。

また、そのようなコミュニケーションの方法を受け入れてしまう危険があります。相手にそういうことをする危険もありますし、そうしなくても、暴力的にいうことを聞かせようとする相手に屈してしまいやすくもなるでしょう。そのような「交渉」を受け入れてしまうからです。

また、繊細なやさしい子の場合だと、教室で他の子が先生から怒鳴られているとき、つまり、他人が「叱られている」のではなく「怒られている」のを聞いていただけで、傷ついてしまうこともあります。

「そんなことぐらいで傷ついていては、この先、生きていけない。もっと強くならないといけない!」と思う方もあると思います。ある意味で、それは現実でもあります。

しかし、怒鳴られても平気な子、つまりタフな子、言い方は悪いけれど鈍感な子だって、鍛えられてそうなったのではありません。「感覚への敏感さ・鈍感さ」は生まれついての素質です。家庭の外での厳しい経験は乗り越えていかねばならないでしょうが、親まで一緒になって子どもを傷つける必要はないはずです。少なくとも私は、自分の子にそんなことをしたくありません。

子どもが望ましくないことをしたときは、混乱して感情を吐き出してしまうのではなく、勇気を持って現実に向き合って、いわば、ちゃんと「困って」、きちんと叱りましょう。これは、ピンチではなく、貴重なチャンスなのだと心得ておくのです。

怯えて怒鳴って混乱する(=怒る)姿ではなく、冷静にカッコよく問題に向き合う(=叱る)姿を、子どもに示すことができます。子どもがこの先、学校や社会で周囲の人との関係において困ったときに、どうふるまうべきか、その大切な手本を示していることになるのだと意識しながら。

親ももちろん人間ですから、感情的になるのは当然です。私も数え切れないぐらい子どもに「怒り」ました。上の子が小さかった頃、隠れてやっていたゲーム機を取り上げて、壊したことさえありました。「子どものために」と必死になっていたのです。思い通りにならない子どもに(つまり、現実に)腹を立て、しょっちゅう我を忘れていました。

ですから、「怒るのは混乱しているんですよ、大切なのはちゃんと叱ることですよ」などと言われたところで、すぐにできるわけがないことは、よくわかっています。

それでも、このようなことをわざわざ書くのは、次のような理由によります。

すぐにできなくても構わないのです。この先の育児のなかで子どもに腹を立てるたびに、たとえわずかでも自分の気持ちを見つめるのです。「今まで怒っていたけれど、これは現実を受け入れられないということなのかも」と意識してみるのです。 そして、子どものためにも自分のためにも、現実的に有効な方法を選ぼうと努力する、つまり、きちんと叱ることを、少しずつでも目指すのです。

それを心がけることで、親は成長できます。続けていけば、確実に変わっていきます。心の中での努力を粘り強く続ける。そうやって子どもに大切なものを伝えていく。

これは、とても贅沢な育児だと私は思っています。