事前に倒産を説明したら、修羅場に突入!

 申請の前日、A社の会長と社長は、「これまで一緒に頑張ってきた社員には、事情を説明しておいたほうがいい。何も知らされずに明日になって、自分の会社の倒産を知るのは酷だ」と考え、従業員を集めて「明日の朝、民事再生法の適用を申請する。その後は、新しい体制で再建に進む」と説明しました。

 会長と社長は、「社員のため」を思って申請前に事情を説明したわけですが、これが完全に裏目に出ました。
 この説明が修羅場の引き金になったのです。

 なんと社員たちは、夜な夜な会社に戻ってきて、会社の備品(資産)を持ち出していった。
 パソコン、電子計測器、テスターなど「売ればお金になる」ものはすべて「略奪」されました。
「会社が潰れたら退職金は出ない。民事再生法の適用申請をしたところで、再建できるかもわからない。だったら、金目のものを少しでも取ってオサラバしてやろう」と思ったのでしょう。

 これが倒産の実態です(結局、民事再生法は適用されませんでした)。
 もし私がA社の社長だとしたら、誰にも言わず、ひとりで、秘密裏に、破産処理を進めるでしょう。

「事前に説明する」のは、「退職金の代わりに、会社にあるものを持って帰っていいよ」と認めるようなものです。