2億7000万円の未回収に
どう立ち向かったか

 当社もA社と同じような局面に直面し、間一髪で倒産を免れたことがありました。

 2003年に、液晶パネルをアニーリング(表面処理)するための「半導体励起固体レーザー」を使った15トンもの大型システムの開発を、大手総合電機メーカー(C社)から依頼されました。

 当社で試算したところ、一台開発するのに約5億円の予算が必要であることがわかりました。

 ところがC社から、「まだ試作段階なので、安くしてほしい。1号機が稼働してから台数を増やし、最低でも5台は御社に発注するので」と頼まれ、2億7000万円で受注することにしたのです。

 当社が正式な注文書を受け取ったのは9月で、契約納期は翌年(2004年)の3月でした。

 短納期にもかかわらず、やっとの思いで納期に間に合わせ、「これから検収を始める」段階になって、C社が「契約違反だ」とクレームをつけてきたのです。

「3月から液晶パネルの生産に入りたかったのに、これから検収するとなると、工程が大幅にズレ込んでしまう」というのが理由です。

 先方は「キャンセルしたい」の一点張りでしたが、当時、日本レーザーには8億8000万円という史上最高の借入金があったため、C社から2億7000万円が入ってこなければ、会社が大きく傾く危険性がありました。

 私はC社に対し、「検収には半年かかるが、御社でも予算化していたわけだから、支払ってほしい」と何度も交渉をしました。

 最後はこのシステムの開発にあたって、当社と共同で特許を取得されたS博士のご尽力もあって、なんとか支払ってもらえました。

 無事に検収が終わったとき、私はC社の担当者に、「この試作機が稼働すれば、当社には次の注文があるわけですよね?」と確認したのですが、担当者は口ごもった。

 私がそのときに覚えた違和感は、のちに現実のものになります。

 そもそも、クリーンルームに入れる10×5m、15トンもの大型システムが半年やそこらで完成できるわけがありません。大手メーカーがみんな断ったプロジェクトです。

 C社の担当者も年度末までに形式的に納入して検収後、時間をかけて仕上げることは了解済でした。

 にもかかわらず、納期遅れを理由にキャンセルの話を持ち出してきたのは、液晶事業の撤退という会社の上層部の方針が浮上したからだったのでしょう。

 やがてC社は、液晶事業から撤退し、液晶事業部門をD社に売却することを発表しました。

 C社の撤退を機に、当社が半導体励起固体レーザーを使ったシステムを順次納入する話も立ち消えになってしまいました。

 さらに、C社に設置したそのシステムをD社に移設する費用に、億単位のお金がかかってしまったのです。

 この費用も、結局、「6000万円」で請け負うことになり、当社は大赤字を被りました(さらに、移設したものの、この試作品は本採用にはなりませんでした)。

 2003年度、当社の売上は伸びていたのですが、利益はまだ多くは出ていなかったため、もし2億7000万円を回収できなければ、間違いなく倒産していたと思います。

 これ以降、当社では、大型の特注品はほとんど扱っていません。
 当時はまだ、日本電子という親会社の保証があったので銀行からの借入れもありましたが、独立後は誰にも頼ることはできません。

 後ろ盾を持たない中小企業が大型案件に手を出すと、たった一度の未回収で倒産に追い込まれることがありますので、注意してください。