若き日のソロスは、トレーダーの仕事は生活のためで、自由時間を哲学研究に充てた。その中で考案した数々の哲学概念が、彼を世界的富豪にする原動力になったことは有名な話だ。

 同じく米国の伝説的な投資家、ビル・ミラーは昨年、母校の一つである米ジョンズ・ホプキンズ大学の哲学科に、日本円で80億円を超えるお金を寄付した。その理由は、自身に成功をもたらした「哲学で培われた分析力と心の在り方」への恩返しにある。

 有名投資家だけではなく、コンピューターサイエンスなど理数系の巣窟である米シリコンバレーにも、哲学を学んだ起業家は想像以上に多い(表参照)。

 代表格はペイパルの創業者、ピーター・ティールだろう。彼は著名な哲学者、故ルネ・ジラールに師事し、哲学の学位を取得した。『ピーター・ティール』(講談社)によれば、ジラールの理論の中核である「模倣理論と競争」が、ティールの「逆張り戦略」に大きな影響を与えたとされる。

 ティールの学生時代からの盟友にも、哲学で結び付いた2人の経営者がいる。リンクトイン創業者のリード・ホフマンと、ティールが共同創設したユニコーン企業、パランティア・テクノロジーズのCEO、アレックス・カープだ。

 ソロスと同じく哲学教授になるのが夢だったホフマンは、英オックスフォード大学で哲学修士を、また、カープはドイツを代表する哲学者、ハーバーマスの下で博士号を取得した。カープの場合、専門外の複雑な問題でもその本質を突き、かみ砕いて議論できる能力が買われたといわれている。

 さらにスラック創業者のスチュワート・バターフィールドや、米大統領候補指名争いでトランプと舌戦を繰り広げた、ヒューレット・パッカード元CEOのカーリー・フィオリーナも、過去のインタビューで哲学の有用性を説く。

 例えば、哲学と歴史の学位を持ち、1999年に女性初の米国企業上位20社のCEOとなったフィオリーナは当時、経営に不可欠な要素として、情報収集のための質問力と、自分が何を知りたいのかを把握することを挙げた。その上で、物事を正しく理解し、論理的に考える哲学の手法が非常に役に立ったと述べている。