国家主席任期撤廃は権力基盤や
政権求心力を弱体化させている

 1つ目は、2017年秋に開催された党の19回大会で、習近平が憲法改正を通じて国家主席の任期(2期10年)を撤廃したことである。

 この動きそのものに関しては本連載でも検証してきたためここでは触れないが、上記の(3)に絡めていえることは、政権初期、中期、後期という時間軸そのものに対する捉え方を変更せざるを得なくなったという点である。少なくとも制度的には習近平は2022年以降も総書記、国家主席、中央軍事委員会主席三役のトップに居座ることが可能になった。

 実際にどうするかは定かではない。筆者が中国、米国、日本などの政府官僚、知識人、軍関係者らと議論をしている限りでは、習近平は2027年、2032年まで君臨するという見方もあれば、それでは逆に反発を招き政権の求心力が低下するために、あえて2022年で退任し、自らの信頼する後継者を据えることで“かいらい政権”を作るという見方もある。

 ただいずれにせよ、(3)で言及した「政権が中期に近づいていく過程で(2016~2018年ごろ)」という時間軸や観察の枠組みは、あまり実質的な意味をなさなくなったといえるだろう。

 2つ目に、(2)(3)に関連して、筆者が当時予想していたよりも、習近平政権の権力基盤が不安定かつ不透明であるという点である。過去の半年において本連載でも扱ってきたが、経済成長の低迷、および出口の見えない米国との貿易戦争が複雑に絡み合い、そんな現状を招いた政権指導部の方針や政策を疑う人間が共産党内外で見られるようになってきた。

「米国との貿易戦争が解決しないまま景気が悪化していく現状下で、習近平が充分な党内外の議論を経ずに一方的に強行した国家主席任期撤廃に対する不満が吹き出てきている」(国家発展委員会元次官級幹部)といった声も聞こえてくる。本稿では深入りしないが、習近平による国家主席任期撤廃は、少なくとも現状から眺める限り、習近平の権力基盤や政権求心力を強化するのではなく、逆に弱体化させているというのが筆者の基本的見解である。そして、このような現状下において、習近平が平反六四する政治的インセンティブは低下していくものと思われる。