祖国統一という最重要事業の
完結前にリスクは侵さない

(1)で挙げたように、中国共産党にとって政治改革を実行することと平反六四は表裏一体である。習近平率いる党指導部が政治改革に極めて消極的な状況下で、天安門事件の清算に乗り出すとは到底思えない。従って、筆者の見る限り、米国、日本、台湾を含めた場所で天安門事件30年にまつわる報道や集会は熱を帯びているとはいうものの、当事者である中国共産党は今日、そして今年を通じて、本事件を“スルー”するであろう。関連する報道や集会に対して、国内では徹底監視しながら動きを潰し、海外でもあらゆる動きをフォローしながら共産党の正統性に疑問が投げかけられないように、ありとあらゆる工作を図っていくに違いない。

 中国共産党はいつになったらこの“暗黒な歴史”に真正面から向き合うのだろうか。筆者には分からないが、昨今の観察と感覚からすれば、中国共産党が“中国”を統治している間は向き合わないのではないかという思いをかつてないほどに強めている。もちろん、中国ではいつ何がどのように起こるか分からないことは歴史が証明している。“希望”を捨てるべきではないのだろう。

 文末となったが、習近平をよく知る革命世代の子弟で、親族が習仲勲と同じ国務院副総理を歴任した人物が筆者に語った次の言葉で本稿を締めたいと思う。

「習近平、そして中国共産党が平反六四する可能性はある。ただそれは台湾を統一してからのことだ。祖国統一という中国共産党にとって最も重要な事業が完結する前に、党や国論の分裂を招くリスクを内包している六四に手を付けることは、私の中国共産党への理解からすれば考えられない。中国共産党はそういう組織ではないし、習近平はそういう指導者ではない」

(国際コラムニスト 加藤嘉一)