歯ブラシ・歯磨き粉Photo:PIXTA

 6月4~10日は「歯の健康週間」である。

 「歯の健康」というと虫歯の予防に関心が行きがちだが、最近は口腔内の細菌叢が全身の健康に影響する可能性が指摘されている。

 口腔内には700種類以上の微生物が存在する。プラーク(歯垢)の細菌密度は1ミリグラム当たり1億~10億個といわれており、腸内の細菌叢よりも密集していると考えられる。

 このうち、全身疾患との関連が強いとされる細菌は「ポルフィロモナス・ジンジバリス(以下、ジンジバリス菌)」だ。

 動脈硬化や糖尿病、非アルコール性脂肪肝炎のほかアルツハイマー型認知症(AD)を誘発するとも考えられており、同菌をターゲットとした創薬が始まっている。

 米Cortexyme社は、ジンジバリス菌が産生する「プロテアーゼ・ジンジパイン」──生体タンパクを分解して宿主細胞や免疫系に損傷を与える毒素──の阻害剤を開発。

 今年1月に公表された動物実験の結果では、開発中の阻害剤がマウスの脳で増殖しているジンジバリス菌を減らし、脳神経の変性を抑制することが示された。

 同剤はすでに、人に対して安全に使用できるかを検討する第1相試験を終了しており、今年中にAD患者を対象とする第2相試験が始まる見込みだ。

 ADに関してはこれまで、病因の一つとされる「アミロイドβ」をターゲットに創薬が行われてきた。しかし結果は連戦連敗。今年3月、最後の有望株だった「アデュカヌマブ(バイオジェン/エーザイ)」の開発が中止されたことは記憶に新しい。

 このニュースの衝撃は大きく、発表直後は関係者の間に「認知症の根本治療は不可能ではないか」という空気が広がった。ジンジバリス菌をターゲットとした薬剤にしても、実際にADの症状を軽減するかは分からないのだ。

 地道に口腔内という身近な環境要因に潜む健康リスクを見直して、日々発症予防に努めるのが現実的なのかもしれない。

 せめて6月の間くらいは、歯垢をしっかり掃除しましょう。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)