徹夜で頑張ることを
奨励する上司は失格である

 このように申し上げると、「頑張って責任を果たし、期待に応え、成果を実現するということは当たり前のことではないか」「頑張って何が悪いのだ」という声が聞こえてくる。もしそう思ったとしたら、一時的な、その場しのぎの頑張りの成果よりも、その場は休んでスケジュールを再調整して、万全の取り組みをした場合の成果の方が大きいということが理解できていない人かもしれない。

 無理をしないでその日は徹夜を回避し、休養をとる。それによって果たせなかった責任、応えられなかった期待、生み出せなかった成果というマイナスよりも、長期離脱によるマイナスの方が圧倒的に大きいということを認識していないビジネスパーソンが多すぎるのだ。

 無理をしてこそ、成長できるという考え方があることは、もちろんわかっている。しかし、体を壊してしまうまで無理をさせることは百害あって一利なしだ。健康を維持できる範囲で、適度にストレッチを効かせて成長させていけばよい。

 私は新卒で入社した会社の所属部門のK部長から、開口一番言われたことを今でも覚えている。「くれぐれも無理をするな。体を壊されたら(組織としてのパフォーマンスの)計算ができなくなる」という意味の内容だった。その時は、「計算ができなくなる」とは、なんとも冷たい言い方だと思い、駒として扱われているような印象を受けて、内心は正直に言って、反感を持った記憶がある。

 若かった私はK部長の話など意に介さず、通勤時間短縮のために自腹のタクシーで日の出前にオフィスに入り、終電後にタクシーで帰宅することを続けた。その結果、1ヵ月後にK部長が各部に謝罪に回らなければならないほどの失敗を犯し、3ヵ月後には高熱を出して数日間休務し、仕事に大きな穴を空けてしまった。

 今では、K部長の考え方が正しいと心底思える。言い方は言葉足らずではあったかもしれないが、組織としての成果と、個人としての成果を安定的に生み出し、持続的に成長させていくために必要不可欠なことを示してくれていたのだ。

 千賀ノ浦親方は、貴景勝の再出場を止めることができなかった。上司は、部下が徹夜しようとしたら止めなければならない。超過勤務の傾向に気づいたら、休務できていないと思えたら、たとえ、目先の業務の進捗や顧客への対応に影響が出ようが、業務をストップさせて、帰宅させたり、休務させたりしなければならない。そのことが、持続的なパフォーマンスの向上を実現する。

 これはとりもなおさず、働き方改革推進のカギだ。貴景勝の再出場問題は、働き方改革を推進するためにアクションすべきことは何なのかということを、考えさせられる事例なのだ。