1980年代初頭に13%以上だった先進国の平均インフレ率は、90年代後半から世界金融危機までの間は2%前後で推移した。これを「金融政策の勝利」と評する声が従来は多かった。しかし、ここにきて「中央銀行はインフレを2%前後でコントロールできる」という考え方は危うくなってきた。
日本銀行は6年前に「2年で日本のインフレ率を2%に押し上げる」と宣言したが、激しい金融緩和策を継続しながら、今後数年を見渡しても目標達成は困難だという予想を日銀は示している。
一方、欧州中央銀行(ECB)も目標の達成に悩んでいる。食品とエネルギー等を除いたコアインフレ率の年平均は2002年において2.4%だったが、金融危機の前年である07年は1.9%。この1年は1%と低下傾向にある。
米国でも50年ぶりの超低失業率の割に物価上昇は緩慢だ。コアインフレ率は米連邦準備制度理事会(FRB)が期待する2%台になかなか乗らず、その手前で足踏みしている。米ミシガン大学による調査では、米消費者の長期インフレ予想もここ数年明らかに低下している。
先進国の大半の中銀幹部は依然として「インフレ率を2%に誘導せねば」と思い込んでいる。ただ、もしかすると90年代後半以降のインフレ率は「金融政策の勝利」ではなく、世界経済の実体面の変化の結果だったかもしれない。