ある大手機関投資家の役員から一冊の英語の本を薦められた。13世紀ごろから20世紀に至る英国の物価の歴史を解説した『The Great Wave』(D.H.フィッシャー著、1996年)である。
同書に掲載されていた物価水準のグラフが非常に興味深かった。西暦1200年代終盤の物価を100とすると、1900年の物価はおよそ1000だ。約600年間で10倍になっている。これは実は意外に低い物価上昇率なのだ。
日本銀行や米連邦準備制度理事会(FRB)を含む現代の中央銀行は、毎年物価が2%ずつ上昇していく経済が正しいと、当然のように主張。そのペースの物価上昇率(インフレ率)が持続した状態を「物価の安定」と、彼らは呼んでいる。しかし、もし2%のインフレ率が600年間続いたら、物価水準は14.5万倍になる。
つまり、英国のその600年間の平均インフレ率は、現代の観点から言えば圧倒的に低かったことになる。前述のそのグラフを眺めていると、1200年代終盤から1500年代前半にかけての二百数十年の物価水準は、ほとんど横ばいだったことに気が付く。
1600年代前半から1700年代終盤にかけてもほぼ横ばい、そこから1900年にかけての100年強はデフレ(物価下落)だった。しかし、その当時は、大英帝国の最盛期だった。2%よりも低いインフレ率は「悪」であるかのような論調が近年は多いが、実はそういった考え方はほんのここ数十年間の議論にすぎないことが、歴史をひもとくと見えてくる。
話を現代の日本に移そう。菅義偉官房長官は先日、携帯電話の利用料金に「4割程度下げる余地がある」と語り、通信業界に衝撃を与えた。