NHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」など、テレビで話題沸騰の「伝説の家政婦」志麻さん。「スーパーJチャンネル」(テレビ朝日系)、「うまいッ!」(NHK総合)などにも出演。
あの志麻さんが、初めて書きおろした料理エッセイ・レシピ本、『厨房から台所へ――志麻さんの思い出レシピ31』が発売たちまち重版となり話題沸騰。第6回「料理レシピ本大賞in Japan」【エッセイ賞】の一次選考も通過したという。
レシピの背景にある波乱万丈のエピソードとともに、調理のコツも凝縮。ふだん家で食べたことのない「フランスのママン直伝のキッシュ」「梨リングフライ」「龍馬チョコレート」は絶品。
さらに、「母の手づくり餃子」「おばあちゃんのお煮しめ」「けんちょう(山口の郷土料理)」のなつかしの味から、「ゆで鶏のシュープレームソース」「豚肉のソテーシャルキュティエールソース」「子羊のナヴァラン」「ローストチキン」などのフランス家庭料理、「フォンダンショコラ」「カトリーヌ先生のそば粉のクレープ」などのデザート、1歳の息子お気に入りの「鶏手羽元のポトフ」まで、実に多彩なレシピがあるという。「3時間で15品」など、これまでのイメージとはまったく違う志麻さんが、あなたの前に突如、出現するかもしれない。
今回は志麻さんに思い出の「ローストチキン」を紹介してもらおう。(撮影・三木麻奈)。

私とローストチキン秘話

 若いころ、夢中で読んだフランス文学や、休みの日には必ず1本は見ると決めていたフランス映画の中でも、食事のシーンはよく出てきます。

 戦争中の貧しさを描いた映画でさえ、屋根にとまった鳩をとって料理し、おいしそうに食べているシーンを今でも鮮明に覚えています。

 そんな食卓のシーンによく出てくるのは、ローストビーフやローストチキンなどの塊肉や大きな鍋に入った煮込み料理でした。

 ローストを切り分けるのはたいてい男性で、家族であればお父さんの役割。
 ビーフやポークであれば端っこのよく火が入ったところと、真ん中のレアな部分、チキンであればしっとりとした胸肉とジューシーなもも肉など、それぞれの好みの部位を選ぶこともできますし、チキンの場合は切り分けた後の骨に残った肉をしゃぶるのが好きな人もいます。

 大皿料理は取り分ける楽しみと好きな部分を好きなだけ食べられるよさだけでなく、一皿ずづ盛りつける手間も省けるし、洗い物も少ないという利点もあります。

 ただ私たち日本人は、オーブンを使うことに慣れていません。
 家政婦の仕事でいろんなお宅へ伺うと、ほとんどの人がオーブンレンジを持っていますが、オーブンを使いこなしている人は少ないものです。

 反対に、日本で暮らしているフランス人たちは「日本にはどうしてオーブンがないのか」と口をそろえて聞いてきます。

 彼らにとってオーブンレンジはオーブンではないようです。
 ローストや焼き菓子だけでなく、煮込み料理でさえオーブンを使うくらいですから、オーブンを使わない日はないといっていいくらいです。

 使い慣れていない私たち日本人にとって火加減や時間など難しいように思いますが、家庭のオーブンにもそれぞれクセがあり、レシピどおり焼いてもうまくいかない場合もよくあります。

 実際に私自身が使っているオーブンは小さいので、丸鶏でローストチキンをつくると、上のほうが焦げてしまったり、火が入りすぎてしまったりします。

 それでも、レストランではないので、完璧な火入れをしなくてはいけないわけではありません。

 友達を呼んでパーティをするときには、よくローストチキンをつくります。
 また、フランスに比べて丸鶏がなかなか手に入らないという点でも、わざわざ丸鶏を見つける必要はなく、骨付きのもも肉や骨なしのもも肉、胸肉、もしくは手羽元など、普段はフライパンで焼いてしまうようなお肉でも、同じようにオーブンで焼いてみると、また一味違った仕上がりになります。