赤ちゃんの心臓は非常に小さく、病気の状態もさまざまで手術は非常に難しい。手術をする小児心臓外科医は1つでも多くの症例をこなして経験を積む必要があるが、出生数が激減している中で若手の医師の育成が困難になっているのが実情。小児心臓外科医は「絶滅危惧種」ともいわれる。そこで誕生したのが、超リアルな心臓3Dモデルだ。(医療ジャーナリスト 木原洋美)
赤ちゃんの心臓手術が
とんでもなく難しい理由
「赤ちゃんの心臓手術は難しいよね。だってあんなに小さい…」
「精密心臓3Dモデル」の話を始めると、ほぼ100%の人がそう言う。確かに乳児の心臓は鶏卵大(新生児の心臓はクルミ大)、重さは大人の20分の1しかなくて扱いにくい。だが本当の難しさは、大きさうんぬん以外のところにある。
「小児の心臓は大人のミニチュアではありません。大人の心疾患は加齢によって心臓の機能が低下したり、心臓に栄養を供給する血管が詰まったり、弁に不具合が起きたりするのが主な原因。赤ちゃんの先天性心疾患のように、心臓の形が正常と大きく異なることはまずなく、手術は血の流れが悪いところにバイパス血管をつないだり、悪くなった弁を入れ替えたりすればいい、比較的平面的な手術です。一方、赤ちゃんの心臓手術は、心臓を正常な形に完全に作り変えるような、3次元での再構築手術です。手術の難易度は格段に上がる」
そう語るのは、先天性の小児心疾患手術の名手として知られる小児心臓外科医、京都府立医科大学(京都府)の山岸正明教授だ。
また、日本の循環器医療の中核をなす国立循環器病研究センター(大阪府)・教育推進部の部長で小児科医の白石公医師も次のように語る。