名医やトップドクターと呼ばれる医師、ゴッドハンド(神の手)を持つといわれる医師、患者から厚い信頼を寄せられる医師、その道を究めようとする医師を、医療ジャーナリストの木原洋美が取材し、仕事ぶりや仕事哲学などを伝える。今回は第10回。かつて2年連続でくも膜下出血を予防する脳血管手術(未破裂動脈瘤のクリッピング手術)のギネス世界記録を持ち、しかも血が出ない「無血手術」を行う脳神経外科医として世界的に知られる佐野公俊医師(総合新川橋病院副院長)を紹介する。

出血のない脳外科手術に
「死体の手術なんじゃないか」

佐野公俊医師
佐野公俊医師

(自分もしくは家族が未破裂脳動脈瘤のクリッピング手術をしてもらうなら、絶対に佐野先生にお願いしたい)

 6年前、佐野公俊先生の手術を取材させていただいた際、そう思った。

 専門的な勉強はしたことがないので、手術のうまい下手は正直分からないのだが、先生の手術がいかに脳にダメージを与えないのかは一目瞭然だった。

 脳動脈瘤は、脳の血管にできる小さな瘤(こぶ)だ。「瘤」というと団子状の硬いものを想像しがちだが、実際の動脈瘤は、血液が詰まった極小のシャボン玉。小さく、薄く、危ない。いつ破裂するかわからない、爆弾のようなものだ。径2ミリ程度の小さなものから25ミリ以上の大きなものまでできるが、75%以上は10ミリ未満が占めている。「未破裂」のままなら治療の対象となることはないが、破裂すれば「くも膜下出血」をきたす。

 破裂の危険性は瘤の位置、形状、大きさ等で変わるが、破裂する危険性を明確に示すことのできる検査方法はまだ確立されていない。ただし、経験豊富な医師は、「放置していいか、治療すべきかは、見ればわかる」と言う。

 くも膜下出血は、発生すれば半数以上が死亡するか社会復帰不可能な障害を残すような極めて重篤な状態となるため、脳ドック等で破裂しそうな動脈瘤が見つかった場合には、開頭してのクリッピング手術か、カテーテルを使って充填物を詰めて瘤を埋めてしまうコイル塞栓術が行われる。

 取材したのは、脳底動脈という脳のど真ん中、一番深い部分にある瘤のクリッピング手術だった。クリッピング手術とは、瘤の根元をクリップで挟み、血流を止めることで瘤を枯らす術式だ。頭を開き、硬膜から患部に近づくには、視神経と内頚動脈とのわずかな隙間からアプローチするしかない。