シャープ再建
『シャープ再建』 中田行彦 著 啓文社書房 1800円(税別)

 本書『シャープ再建』は、多数のシャープ関係者からの一次情報を経営学の視点で分析した上で、このスピーディーなV字回復の秘訣を解き明かしている。

 著者の中田行彦氏は、1971年にシャープに入社し、液晶や太陽電池の研究開発等に33年間従事。その間3年、米国のシャープアメリカ研究所等に勤務するなど、シャープの内側を当事者としてよく知る人物だ。さらに、2004年からは立命館アジア太平洋大学教授として技術経営の教育・研究に携わり(現在は同大学名誉教授・客員教授)、経営学者としての視点も持っている。

 日本の大手電機メーカーが外資系企業に買収されるのは、シャープが初のケースだった。最初に報道された時には、海外への技術流出の懸念とともに、「シャープ消滅」さえもささやかれていた。誰も、これほどまでのスピード回復は予想していなかったのではないだろうか。

 中田氏によれば、この回復劇は、鴻海からたった1人で赴任した戴正呉(たい・せいご)社長(現在はシャープ会長兼社長兼中国代表)の手腕によるところが大きい。

 その戴社長の経営スタイルを中田氏は、鴻海流「日本型リーダーシップ」と呼んでいる。台湾企業である鴻海の流儀でありながら「日本型」とは、どういうことなのだろうか。

どん底のシャープを救った
戴正呉社長の経営手法とは?

 本書を読む限り、戴社長は、まるでベンチャー企業の社長のようだ。以前、私が参画していたベンチャー企業の社長の振る舞いに、よく似ている。

 その社長は、ワンマンで即断即決しているように見えながら、実は部下の意見もよく聞いていた。私も、しょっちゅう社長室に呼び出された。そこでは、いつの間にか議論になり、気がつくと私は新たなミッションを背負わされていた。

「背負わされた」といっても、押し付けられた感覚はまったくなかった。自分から言い出した気にさせられたから不思議なものだ。部下との意見のすり合わせ方が、絶妙だったのだ。

 シャープの戴社長も同様に、社員とのコミュニケーションを重視していたのだろう。

 就任直後から、毎月1回「社長メッセージ」を全社員にメールで送っている。自らのビジョンや、社員に求める仕事に対する姿勢や考え方などを、繰り返し、直接伝え始めたのだ。