日本人もかつてはそろばんなどで、計算の技術とツールの使い方を学んできました。スマートフォンよりそろばんの方が、よほど使いこなすのは難しいと思いますが、ちゃんと使えていたのです。ところが話がITになると「学ばなければ使えないなんておかしい」となり、それが正義となってしまっています。今や3歳児でも、スマホやタブレットでYouTubeの動画を再生できる時代です。中国人にできて日本人にできないというのは、IT技術を学ぶことに対する、ある種の甘えがあるからではないでしょうか。

 こうしたIT技術を学ぶことへの姿勢は、ひいては国際競争力に影響すると私は考えています。日本人はITを学ぶことへの姿勢・考え方を改めなければならない、と中国人のITリテラシーの高さを実際に見て感じました。

社会受容性の低い日本では
新しい技術がなかなか試せない

 中国ではQRコードを使った、さまざまな面白いサービスが生まれています。私もいろいろ試してみましたが、中には「これは到底、サービスとして成り立たないだろう」と思えるものもありました。

 例えば、とある外資系のスーパーで使われていた「無人レジ」をさらに発展させたシステム。これは、アプリをインストールするとスマホがバーコードを読み取るスキャナーになり、店頭商品を買い物カゴに入れるときに自分でスキャンすれば、そのまま持ち帰れるというものです。確かに楽ですし、レジスペースを無くすこともできます。しかし店員が、店を出る前に念のためカゴの品物を確認する仕組みになっていて、その手間がすごくかかるため、実際の運用は難しそうでした。

 ただ、そこには「一応やってみる」という姿勢があります。ダメでもいいからつくってみて、試してダメならやめる。それが可能だから、そうしたサービスが雨後のタケノコのようにどんどん出てきている。つまり、彼らは、失敗から学んでいるのです。これは中国の「社会受容性」の高さが成せる技だと思います。

 新しいサービスの中には、多少リスクがあるものも、たくさんあります。中国だけでなく米国でも、クルマの自動運転の実証実験が行われ、シリコンバレーなどでは何台もの自動運転車が走っています。その中には、事故を起こしたものもありました。もし日本で同じことが起きれば実証実験を行えなくなり、実用化はかなり先になるでしょう。

自動運転車の実証実験米国では自動運転車の実証実験も盛んに行われている。もし日本なら、事故が起きれば、実用化が遠のく可能性も高い Photo by T.O.

 米国では事故が起きたからといって、全ての州で自動運転の実証実験を禁止することにはなりません。もちろん議論の中で「安全性をきちんと確認してほしい」という話にはなりますが、「新しい技術にはリスクがある」「人間が運転しても、同じように事故が起こるかもしれない」という考え方が当たり前で、「実験をやめろ」という意見が大勢を占めることはありません。これが新しいものに対する社会受容性だと思います。