名医やトップドクターと呼ばれる医師、ゴッドハンド(神の手)を持つといわれる医師、患者から厚い信頼を寄せられる医師、その道を究めようとする医師を、医療ジャーナリストの木原洋美が取材し、仕事ぶりや仕事哲学などを伝える。今回は第11回。日本屈指の乳がん治療の名医として知られている山内英子医師(聖路加国際病院副院長・ブレストセンターセンター長・乳腺外科部長)を紹介する。

愛を手技に投影するのが
私のプロフェッショナル

山内英子医師(聖路加国際病院副院長・ブレストセンターセンター長・乳腺外科部長)山内英子医師(聖路加国際病院副院長・ブレストセンターセンター長・乳腺外科部長) Photo by Motokazu Sato

「生命が危ない、極めて難易度の高い手術。先生は愛する人を執刀できますか?」――。

 2年ほど前、山内英子先生にメールで尋ねたことがある。

 きっかけは当時話題になっていた医療系ドラマ『A LIFE~愛しき人~』。木村拓哉演じる天才外科医・沖田が、今は親友の妻となった元カノの脳腫瘍手術を託される。極めて難しいが、なんとしても助けたい。不可能を可能にする術式を懸命に模索する沖田。しかし元カノの手術が迫ったある日、実父の心臓手術に挑んだ沖田は、自分の意思とは無関係に手が震え、ありえない凡ミスを犯してしまう。リカバリーはできたからよかったものの、そんなことで元カノを救えるのかキムタク!

 という展開で次週に続くとなったところで、筆者は疑問が湧いた。

 通常、大病院では、肉親の手術は執刀してはいけないルールになっている。万が一の場合、冷静ではいられなくなる可能性が高いからだ。ただ、そうは言っても、院内に(その疾患について)執刀医以上に腕のいい医師がいない場合、話は別だ。

「私はできると思います。愛を手技に投影するのが真のプロフェッショナルですから」

 きっぱりとした返事が戻ってきた。