名医やトップドクターと呼ばれる医師、ゴッドハンド(神の手)を持つといわれる医師、患者から厚い信頼を寄せられる医師、その道を究めようとする医師を、医療ジャーナリストの木原洋美が取材し、仕事ぶりや仕事哲学などを紹介する。今回は第9回。ぜんそく・アレルギーの治療と臨床研究で全国的に名が知られている谷口正実医師(相模原病院アレルギー科・呼吸器内科/臨床研究センター長)を紹介する。
重症のアレルギー疾患
“凶器”は屋根裏にあった
「発作は診察室で起きているんじゃない、現場で起きているんだ」――。
谷口正実先生の話を聞いていると、そんな言葉が思い浮かぶ。たとえば若き日の、こんなエピソード……。
(すっきりと片付いているし、清潔だ。風通しも悪くない。だが気をつけろ。この家のどこかに、必ずアレルゲン〈アレルギーの原因物質〉が潜んでいるはずだ。どこだ)
病院が休みの日、谷口先生が訪れたのは、重症のカビアレルギー、アスペルギルスの患者宅だった。
居室内を隅から隅まで注意深く観察していくが、それらしきカビは見当たらない。
(おかしいな。何か見落としている気がする)
考えこみながらふと天井を見上げると、なんと、天井板の間から屋根組が見えるではないか。
「屋根裏があるんですね。確認させてもらっていいですか」
ハシゴを持ってきてもらい、上るなり、叫んだ。