マーケティングに関する「共通言語」が必要

  一方、若手社員が幹部を説得する場合は、工業化時代から情報化時代、そして知識創造時代のマーケティング概念をすべて学んでおかなければなりませんが、そもそも上司とは拠って立つ言語体系が異なるため、いくら説得を重ねたとしても、なかなか上司の理解を得ることができません。
  ダイレクトマーケティングを用いれば広告効果があがると訴えても、上司はその言語を持ち合わせていないので、話が通じないのです。

  そこで競争分析、市場分析、自社の強み、財務体質など、マスマーケティングの概念を用いて説得しようと試みますが、「前例はあるの?」「成功する見込みはあるの?」という言葉で蹴られてしまいます。

  いまの時代、前例のないことをしなければ会社が潰れてしまう、というときに、前例も何もあったものではありません。
  結局、企業内で感情的な対立を生み、世代間の歯車が一向に嚙み合わないという状況が続きます。
  具体的な事例をあげてみましょう。

  たとえば、マーケティング、プロモーションを目的として、若手社員が一丸となって、その企業のフェイスブックページを立ち上げようと企画しました。
  そのアイデアを上司に持っていったところ、開口一番、

「ところで、誰がフェイスブックページを管理するんだ?」

  この言葉を言われてしまうと、現場の若手社員は皆、辟易してしまいます。
  なぜなら、フェイスブックなどのソーシャルメディアは、管理しようとしても管理できない性質を持っているからです。そもそもソーシャルメディアを管理しようとしたら、その途端に炎上してしまうでしょう。

  ところが、この上司は、情報空間をコントロールすることで、ブランディングすることが重要だったマスマーケティング手法に精通しているので、コントロールできない世界にどう対応すべきか、適切な指示を出せなかったのです。

  このように、上司と部下の間で、マーケティングに関する「共通言語」を持たないと、プロジェクトがまったく進まなくなり、組織が硬直化していきます。

  こうなると、若手社員は共通言語を持たない上司に愛想を尽かし、どんどん会社を辞めていくでしょう。なにしろ、ビジネスの垣根は限りなく低くなっているので、会社を辞めたとしても、一人生きていく生活費くらいは、その気になれば、稼げる時代になってきているからです。

  逆に、まったく実力のない人は、会社を辞めた途端に食べていけなくなるので、会社に残ろうとします。
  結局、実力のある人は抜け、実力のない人だけが残る。
  これでは、組織として存続できません。
  だからこそ会社は変革しなければなりませんし、そのためにも経営者の意識改革が求められるのです。(⇒7/4第2回につづく)


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神田昌典(かんだ・まさのり)
経営コンサルタント。多数の成功企業やベストセラー作家を育成し、総合ビジネス誌では「日本一のマーケッター」に選出。著書に、『全脳思考』『60分間・企業ダントツ化プロジェクト』『あなたの悩みが世界を救う!』『成功者の告白』『人生の旋律』『非常識な成功法則』、監訳書に、『ザ・コピーライティング』『伝説のコピーライティング実践バイブル』等がある。