「失われた20年」と呼ばれる経済の停滞、そして昨年発生した東日本大震災――。日本を襲うこれらの試練に我々が立ち向かうため、新しい価値観の創造を呼びかける人々がいる。それが、都内公立校初の民間登用で杉並区立和田中学校長を務めた藤原和博氏、カリスマ経営コンサルタントの神田昌典氏、そして3.11後に日本最大級のボランティア組織「ふんばろう東日本支援プロジェクト」を設立した早稲田大学大学院(MBA)専任講師の西條剛央氏だ。
藤原氏は最新刊『坂の上の坂』(ポプラ社)で「多くの人が80代まで生きる現代では坂の上にはまた坂があることを理解すべき」との人生設計の再構築を提言。神田氏は著書『2022―これから10年、活躍できる人の条件』(PHPビジネス新書)で「あと10年で会社はなくなる」などの予測をしながらも「これからの日本は歴史上、極めてエキサイティングなチャンスに満ち溢れる」と主張。そして西條氏は『人を助けるすんごい仕組み』(弊社刊)でボランティア遂行にあたり自ら体系化した“構造構成主義”を方法原理として採用した背景を紹介し、注目を浴びている。
今回、日本の教育現場をそれぞれの立場から見てきたこの3人が集い、10年後の日本であるべき教育の姿を『坂の上の2022』と題して語り合った。果たして日本は2022年までに、教育によって社会に変革を起こせるのか。前編は、3.11であらわになったこれまでの教育による弊害を、3人がそれぞれの体験談とともに紹介する。
「正解主義」と「修正主義」の教育が
3.11で生死を分ける結果に
藤原 最初に僕から和田中でも行っていた“よのなか科”の授業をコンパクトにまとめて行いたいと思います。まず3.11と絡めて、「正解主義」とその対局にある「修正主義」についてお話ししましょう。正解主義とは正解があるという前提のもとで1つの解を早く求めようとすること、修正主義は実際にやってみたり、人の話をよく聞いて修正しながら納得解を得ていくことを指します。この2つの態度の違いで、3.11の震災で大きな津波が襲った岩手県釜石市と宮城県石巻市大川地区では決定的な差が生まれました。
震災による小中学生の生存率が99.8%だった“釜石の奇跡”は、みなさんご存じだと思います。これは、防災の専門家である群馬大学大学院教授の片田敏孝先生が、全国各地で行われている避難訓練とは全く異なる防災教育を約7年、同市で行ってきたことが実を結んだものです。
ふつう避難訓練というと、「ただいま給食室で火災が発生」と放送を流し、みんな嘘だと分かっていながら動くもの。黙って静かに前の人について動き、その後体育館に整然と並び、人数を数えて…と予定調和的に終わります。