香港の若者たちに必要な
本格的な闘いのための「目標」

 ただし、今後この抗議行動がどこへ向かうのかは不透明だ。「逃亡犯条例」改正案を事実上撤回に追い込んだことは、「香港の民主化」(2015.10.13配信記事P.2)という観点からみれば、マイナス100まで落ちていたものを、マイナス70くらいまで押し返したにすぎないだろう。

 また、次の目標を「行政長官の辞任」に定めて抗議行動を継続し、目標を達成しても、民主化の実現はマイナス50くらいにしかならないのではないか。なぜなら、香港の行政長官選挙は普通選挙で選出されるが、事実上「親中派」しか選ばれない仕組みが導入されている。現状では、次の行政長官も、親中派から選出されるだけだ。また、15年以降、多くの民主派・独立派の香港立法会議員や候補者が資格停止になったままである。

 要するに、「逃亡犯条例」改正案を撤回させて、その先に行政長官辞任を達成したとしても、香港の民主化という意味では若者たちは何も勝ち取っていない。アグネスさんが言う「香港の選挙は、AKBの総選挙のようなもの。一見普通の選挙が行われているようだけど、実は共産党が全部決めている」という状態は、なにも変わらないのだ。もし、そこで抗議行動を終わらせれば、若者たちの間には、雨傘運動の1年後に私が見たような、無力感が漂うことになる(2015.10.13配信記事)。

 香港政府と、その背後にいる中国共産党が意外なほどあっさりと「逃亡犯条例」改正案の事実上の撤回を決め、雨傘運動のカリスマ、ジョシュアさんを釈放したのは、若者たちの「目標」を失わせることで彼らの連携や一体感を弱めて、抗議行動が収束していくのを待つつもりなのかもしれない。

 従って、若者たちには「逃亡犯条例」撤回、行政長官辞任の先の、より本格的な闘いのための「目標」が必要になってくる。しかし、それは非常に困難なことのように思える。今回の抗議行動を主導している若者たちは、一枚岩ではないからだ。