香港の逃亡犯条例改正について日本で会見を開いた、「民主の女神」と評される周庭(アグネス・チョウ)氏 Photo:JIJI

中国共産党が進めてきた
「香港の中国化」

 香港で、中国本土への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」の改正案をめぐり、若者ら103万人が参加する大規模な抗議デモが起きた。香港政府の林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官は、立法会(議会)での審議を中断すると発表した。ラム長官は、改正案について「説明と意思疎通」が不十分だったことを認めた。

 しかし、デモの主催者は条例改正案の審議を延期するだけでは不十分だと主張し、香港政府の譲歩を受け入れなかった。完全に条例改正案が撤回されるまで、政府への抗議を止めないという強い意思を示すために、抗議デモを継続することを決めた。

「逃亡犯条例」改正には、香港政府の背後にいる中国共産党の意向が強く働いていることは疑いようがない。中国と香港の間は「一国二制度」だが、その根幹にかかわる制度改正を、香港政府だけで決められるわけがないからだ。

「一国二制度」では、1997年の「香港返還」から50年間、香港の民主主義体制が守られることになっている。しかし、実際には中国共産党は「香港の中国化」を目指し、圧力を強めてきた。香港の行政長官選挙は普通選挙で選出されるが、事実上「親中派」しか選ばれない仕組みが導入された。それに反対した2014年の「雨傘運動」は成功せず、その後香港の「立法会」では、「民主派」「独立派」の議員が次々と資格停止となった。雨傘運動を主導したメンバーには実刑判決が下され、収監された(6月16日、中心人物だった黄之鋒〈ジョシュア・ウォン〉さんは釈放された)。

 だが、「逃亡犯条例」改正に関しては、中国はいささか調子に乗りすぎたのではないだろうか。時期的に最悪であり、やり方も稚拙すぎた。

 現在、中国は米国と「貿易戦争」の真っただ中にある(本連載第211回)。その時期に香港の「逃亡犯条例」の改正を強引に進めようとしたのは、米国に格好の攻撃材料を与えてしまう、最悪のタイミングだったといえる。デモが始まると、米国は即座に反応した。この改正案が香港の統治を脅かすと批判し、抗議デモに中国が直接介入するなどした場合、米国が制裁を検討する可能性があると牽制したのだ。

 また、中国への批判は米国だけでなく、国際社会に広がっていった。カナダのクリスティア・フリーランド外相が「香港のカナダ市民への影響を懸念している」と表明し、欧州連合(EU)も「香港市民の多くの懸念を共有する」と発言した。多くの欧米企業が、香港に拠点を置いており、自国民の安全や企業の利益にかかわるので、この条例案改正に無関心ではいられないのだ。