東海道新幹線の新型車両に、停電時でも走行できるバッテリーが搭載される。高速鉄道では初だが、実は地下鉄では、すでにバッテリー搭載車が走っている。東日本大震災の教訓から開発が急ピッチで進んだ鉄道の非常用バッテリーは、災害時だけでなく、普段の省エネにも寄与する優れものだ。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)

東日本大震災の大混乱から
開発が進んだ「電車の非常用電源」

東海道新幹線の新型車両「N700S」
東日本大震災をきっかけに、「停電時に車両を動かして最寄駅まで乗客を運ぶ」目的でのバッテリー開発が進んだ Photo:JIJI

 7月10日、JR東海は2020年度の営業開始を予定している東海道新幹線「N700S」車両の走行試験を公開した。N700S といえば、6月には営業運転最高速度を大幅に上回る時速360キロの高速試験運転の様子をマスコミ公開したばかりだが、今回の試運転の運転速度は原付並みの時速30キロだ。

 この試験の目的は、事故や災害による停電によってトンネル内や橋梁上など避難が困難な区間に列車が停止した場合を想定し、車両に搭載したバッテリーから電力を供給することで、避難しやすい場所まで移動しようという試みである。加えて、これまでは停電時に使用不能となっていた列車内のトイレも、継続して使用が可能になるという。

 車両のみならず、信号や踏切、駅の設備など運行に関わる設備のほとんどを電力で動かしている鉄道にとって、停電は鉄道システム全体の停止を意味する重大事だ。

 ところが、ほとんどの鉄道事業者は自前で発電所を保有していない。例外的にJR東日本は大規模な水力発電所と火力発電所を保有しているが、それにしても全ての使用電力を賄っているわけではない。その他の事業者では、駅で使用する電力の一部を発電する小規模な太陽光発電システムを設置する事業者がある程度で、鉄道事業者は使用電力のほとんどを電力会社から購入している。つまり、停電時の対策は鉄道事業者にとって、これまでも重大な課題であった。

 古くから対策が進んでいたのは地下駅の非常用設備だ。放送装置や防火・排煙装置など、避難時の安全確保に必要な設備に関しては、外部からの電力供給が断たれた場合、自動的に非常用発電機が作動し、避難が完了するまでの一定時間は設備の稼働を可能とする体制が構築されている。

 一方、列車は事故や災害、異常を認めた場合(火災を除く)には、直ちに緊急停止するのが原則である。ラッシュ時ともなれば1編成に2000~3000人が乗車しており、これを車両から降ろして徒歩で避難させるのは困難であるため、安全確認後、最寄り駅または避難が容易な場所まで移動して避難を行うことになっている。停電時は付近の駅などから応援の係員が来て、車両から乗客を降ろして徒歩で誘導するのだが、大規模地震など広域で停電が発生する災害時は対応しきれない可能性がある。

 これは東日本大震災以降、防災・避難体制を強化する上で大きな懸念となったことから、停電時でも電車を動かすための対策の検討が進んだのである。