その日の夕方、B社長はD社労士からのアドバイスを基に、Aの有休取得のため、他のスタッフのシフトを調整できないか検討した。当初、他店のスタッフで賄おうと考えたが、どこも人手が足りないため不可能だった。そうなると、乙店内で調整するしかなく、患者の予約人数を抑えたり、営業時間を通常より短くしたりすることにした。

 その結果、Aは本人の希望通り9月上旬に連続3日間、正月の前後に2日間の有休を取得することになった。問題は他のスタッフである。他のスタッフにも有休を取得させないといけないので、これから調査を行い、D社労士のアドバイスを受けながら進めていくこととなった。

自分を見つめなおしたAは
ついに行動を起こす

「揺れる炎を見ているだけで心が癒される…」

 9月の上旬、有休を使って西伊豆のキャンプ場に1人で来ていたAは、夜の間ずっと焚火を見ながらまどろんでいた。そして、この休みを取るためにB社長からさんざん嫌味を言われたことや、普段からずっと「ノロマ!」「バカ!」等、口汚く罵られていたことを思い出していた。

「1日10時間以上懸命に働いているのに、なぜ有休を取るのに嫌な思いをしなきゃいけないんだ!?社長は今後もこんな調子だろうし、もうガマンできない。いっそのこと、転職活動を始めるか!」

 その1ヵ月後、Aは他の整骨院に転職した。新しい職場も、前職と同様シフト制ではあるが 週休2日で残業はほとんどない。残業手当がない分、給料は減ってしまったが、労働時間が短くなるので身体はラクになる。そしてAにとって何よりもよかったのは、有休が取りやすいことだった。

 一方、B社長はAの退職でますます疲労困憊していた。Aの代わりのスタッフがなかなか見つからず、当分確保できそうにないからだ。

「こうなったら定休日を設けて乗り切るしかない。会社の売り上げがまた下がるのかぁ。痛いなぁ…」

 B社長は売上帳簿を見ながら嘆くのであった。

※本稿は実際の事例に基づいて構成していますが、プライバシー保護のため社名や個人名は全て仮名とし、一部に脚色を施しています。

補足情報
有休取得の申し出に対し、会社が拒否しただけではパワハラにならない。本件のように、普段から言葉遣いが荒かったり、人を見下したような態度や言動を取っていたりすると、パワハラになる可能性がある。

<参考>労働基準法第39条「年次有給休暇」
第5項:(省略)請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。(時季変更権)
第7項:使用者は、第1項から第3項までの規定による有給休暇(これらの規定により使用者が与えなければならない有給休暇の日数が10労働日以上である労働者に係るものに限る。以下この項及び次項において同じ。)の日数のうち5日については、基準日(継続勤務した期間を6箇月経過日から1年ごとに区分した各期間(最後に1年未満の期間を生じたときは、当該期間)の初日をいう。以下この項において同じ。)から1年以内の期間に、労働者ごとにその時季を定めることにより与えなければならない。(2019年4月1日より施工)