安全な薬を!
アフリカ睡眠病への取り組み

 アフリカ睡眠病の歴史は長いものの、ヒトに対する効果的かつ実用的な治療薬はなかなか見つからなかった。1940年代に開発されたヒ素系の治療薬は、副作用が強く死亡率も高かった。1990年代には、6時間おきの点滴治療を14日間もする必要があった。アフリカという医療施設が十分でない地域での治療は困難である。

 このような病気に対しての取り組みがある。WHOは、「顧みられない熱帯病:NTD Neglected Tropical Disease」として20の疾患を選定し、これらの疾患の対策を積極的に進めている。先進国にはなく、熱帯地域の一部での疾患であったり、死亡しないものの長期にわたり苦しめられたりする寄生虫疾患などであるが、アフリカ睡眠病は代表的な「顧みられない熱帯病」である。

 このアフリカ睡眠病に対する初めての経口薬開発に成功した、国際的な非営利の研究開発組織がある。スイス・ジュネーブに本部を置くDNDi(Drugs for Neglected Diseases initiative:顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ)である。国境なき医師団(MSF)がノーベル平和賞の賞金を、この団体の設立に使ったという話は有名である。

 DNDiはこのまったく“もうけ”にならない病気のために、設立間もない段階から研究開発を開始し、フランスの製薬会社であるサノフィやアフリカ地域等のパートナー、資金提供者らと協力して、経口薬フェキシニダゾールを開発した。2018年11月に欧州医薬品庁の推奨を受け、2019年1月にはコンゴ民主共和国での承認も完了した。

 この安全で、病気の初期 (第1期) および 、患者が神経精神症状を示す第2期の両方に効果を持つ経口薬の登場により、それまで必須であった入院治療は不要となり、僻地で暮らす患者や家族、そして医療従事者の負担が大きく軽減されることとなった。患者の治療が進み、この全く顧みられてこなかった病気の制圧が実現される日が近づいたのである。

 これに呼応して日本の研究者も立ち上がった。長い間、このアフリカ睡眠病と戦ってきた研究者である長崎大学の北潔氏、大阪市立医大の城戸康年氏は、昨年から、エボラ出血熱でも有名な生物医科学研究所(ムエンベ所長:2019年 ・野口英世アフリカ賞受賞予定)の寄生虫部長ムワバ氏と、この静かなる脅威である「アフリカ睡眠病」制圧のための研究を、ここ、キンシャサにおいて開始したところである。

(コンゴ民主共和国保健省次官付顧問・JICA専門家・国立国際医療研究センター医師 仲佐 保)