2030年までにロボットに職を代替される世界の製造業就業者数
ロボットの普及が加速している。世界の産業用ロボットの普及台数は225万台となり、過去20年で3倍に拡大した。国際ロボット連盟の短期予測などを基に推計すると、2030年には2000万台に達する見込みだ。日本のようなロボットに競争力がある国にとっては朗報だろう。
ロボットは生産の効率化のみならず、新しいビジネスや雇用を創出し、生産性を高め、GDP(国内総生産)を押し上げる。
当社の推計によると、労働者1人当たりのロボット台数が1%増えると、労働者1人当たりの付加価値は0.1%増加する。それを用いて世界経済への影響をシミュレーションすると、30年のロボット導入台数が現時点での予測(2000万台)を3割上回ると、世界のGDPの水準を5.3%上振れる。それを現在の時価で計算すると、世界のGDPが4.9兆ドルとなり、ドイツのGDPを上回る規模だ。
他方、ロボットに職を奪われるという懸念も世界的に広がりを見せている。実際、当社の推計によると、21世紀に入ってから、製造業において1700万人もの職が主要先進国と新興国から奪われている。ロボットが1台増えると、1.6人分の職が奪われていく計算だ。今後、ロボットが加速度的に増加するため、30年までにさらに2000万人分の職がロボットに奪われていくことになる。
低スキルの職ほどロボットに代替されやすい。同じ国の中でも、ロボットに奪われる職の数は低所得地域ほど多く、高所得地域と比べて2倍にもなる。つまり、ロボットの普及は所得格差を拡大させてしまうのだ。
ロボット社会が安定的に繁栄するには、所得格差拡大で高まる社会的・政治的ストレスへの対処が必要となろう。より具体的には、ロボット普及で得られる莫大な経済的プラスを原資として、いかに所得の再配分を行うかが鍵になる。いわば政治の果たすべき役割が大きい。人間がロボットを使いこなせるか否かは、政治というロボットでは代替できない高度に人間的な営みに懸かっている。
(オックスフォード・エコノミクス在日代表 長井滋人)