「こんまり」の成功が意味すること

山口:世の中の動きを知る手掛かりとして、その時々にどういう人に注目が集まっているかというのを見るのが一番分かりやすいと思うのですが、そういう意味で今最も象徴的なのが近藤麻理恵、こんまりさんです。

『人生がときめく片づけの魔法』という彼女の本は、日本でミリオンセラーになりましたが、アメリカでも500万部も売れています。莫大な富が彼女に集まっている。彼女にあれだけの莫大な富が集まるということは、彼女が何らかの価値を世の中に出しているということです。

では、彼女がモノを生み出しているのかということなのですが、真逆で、ありとあらゆるモノを減らす手伝いをしている。今一番、注目されているグローバルな日本人が、モノを増やすのではなく、減らすことで世界的に高い評価を得ていることは、まさに昭和の価値観の終焉を表していると思います。

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わざわざ「不便さを買う人」が増えている

山口:では、一方で何が希少になっているかというと、情緒とかロマンといったものです。今都心の家を売って、鎌倉とか葉山とか軽井沢に住居を移す人か増えています。別に都心が高くて住めないという理由ではなく、わざわざ不便さを買っている人たちです。

私も家は葉山ですが、自分の家も含めて周りの家も、冬にエアコンを使いません。薪ストーブで暖をとっているのですが、エアコンと薪ストーブのどちらが便利かというと、圧倒的にエアコンです。

薪ストーブは、冬になる前に薪を集めてきて、それを適当な長さに揃えて、実際に火をつける時には、小さな焚きつけから、少しずつ火を大きくしていく。安定した後も、薪をたしたり、空気の調節をしたりしなくてはいけません。毎回、毎回、植物を育てるように火を育てるという感覚で、かなり面倒です。

ボタン1つで快適な温度にしてくれるエアコンがあるにもかかわらず、薪ストーブで暖をとっている。それでたまに失敗したりして、火災報知器が作動してしまってと、楽しそうに話す人たちもいます。マゾヒスティックに楽しんでいるのです。世の中、変態が増えているということかもしれません(笑)。

たとえば旅館でも一番高い値段をとるようなところというのは、山奥の一番行きにくいところにあったりします。しかも1日1組だけしか泊まれない旅館だったりするわけです。

問題を解決するモノ、便利なモノの高性能をデータで説得することで、どんどん売れた昭和的な価値観の時代から、感性やアートの方に価値が置かれる時代になってきていることは間違いないと思います。
第2回に続きます

山口 周(やまぐち・しゅう)
1970年東京都生まれ。独立研究者、著作家、パブリックスピーカー。ライプニッツ代表。
慶應義塾大学文学部哲学科、同大学院文学研究科修了。電通、ボストン コンサルティング グループ等で戦略策定、文化政策、組織開発などに従事。
『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)でビジネス書大賞2018準大賞、HRアワード2018最優秀賞(書籍部門)を受賞。その他の著書に、『劣化するオッサン社会の処方箋』『世界で最もイノベーティブな組織の作り方』『外資系コンサルの知的生産術』『グーグルに勝つ広告モデル』(岡本一郎名義)(以上、光文社新書)、『外資系コンサルのスライド作成術』(東洋経済新報社)、『知的戦闘力を高める 独学の技法』(ダイヤモンド社)、『武器になる哲学』(KADOKAWA)など。神奈川県葉山町に在住。