先月(09年6月)末に『会計&ファイナンスのための数学入門』という書籍を出版した。第5回コラム(シャープ・ソニー・東芝)や第7回コラム(ユニクロ=ファーストリテイリング)で紹介した、“企業にパニックが起きているかどうかを炙り出す指標”である「タカダ-デフレーター」に関する具体的な計算式を収録している。

 その他に「最適キャッシュ残高方程式」や「デフォルト(債務不履行)方程式」なども本邦初公開とした。

 企業に対する経営分析の道具が増えた、と喜びたいところだが、「最適キャッシュ残高方程式」などは、社外の利害関係者(債権者や投資家)向けというよりも、社内の経営管理者向けの指標といえる。なぜなら、日次ベースの現金預金勘定のデータを基礎とするからだ。

 個人的には、今回取り上げるソフトバンクの現金預金勘定の元帳を閲覧して同社の最適キャッシュ残高を計算し、同社お気に入りの指標“EBITDA”の妥当性を、より深く検証してみたいところである。

 もちろん、最適「キャッシュ」残高方程式は、現金預金勘定に限ったものではない。最適「在庫管理」方程式としても応用がきく構造になっている。

 ジャスト-イン-タイムなどの生産方式によって在庫圧縮に取り組めるのは、チカラのある大企業に限られる。中小企業は常に「作りすぎによる過剰在庫」と「在庫切れによる販売機会の喪失」の板挟みに悩まされる。そうした経営環境にある企業にとって、最適キャッシュ残高方程式は一つの解を与えることだろう。

 数学と聞くと毛嫌いする人が多い。筆者もそれほど得意ではない。数学は「教室で学ぶもの」ではなく、「実務で使うもの」と割り切るとよいだろう。

ソフトバンクは巨象NTTの背中が見え始めたか

 ということで今回は、2兆円を優に超える借金を抱えて、「最適キャッシュ残高」がどのあたりにあるのかが気になるソフトバンクを取り上げる。

 NTTやKDDIとの間で繰り広げられている「ケータイ電話戦争」について、数多くのマスメディアで取り上げられているが、結局は利用者の“好み=主観”で語られることが多い。本コラムでは決算書という「客観的数値」に注目して、ソフトバンクの背後にある事実を探ることにしよう。