インカム収入にこだわるな

 個人投資家が、高配当銘柄に注目した株式投資を行う事に筆者は反対しないが、投資家が「配当」、あるいは「インカムゲイン」という属性にこだわっているのだとすると感心しない。

 例えば、「配当によるインカム収入で年金を補填して老後の生活費に充てる」というような生活設計は、配当に対する無用なこだわりだ。投資信託への投資において、毎月分配型を選ぶのと同様に不適切だ。

 大昔の「金利生活者」のイメージが残っているからか、あるいは株式を部分的に売却することに心理的な抵抗感があるからか(行動経済学的には売値よりも将来値上がりする可能性を忌避する「後悔回避バイアス」だろう)、配当による利益を株価の値上がりによる利益と分けて考えたがる傾向が少なからぬ人にあるのだが、投資についての適切な判断を間違える原因になりやすい。

 特に高齢者にあっては、「高齢者の資産運用では、インカムゲインに注目することが大事です」と言う金融機関のセールスマンを徹底的に警戒する必要があると申し上げておく。

 個別株投資でインカムゲインを求める投資家は、余計な手数料を払わない分だけ毎月分配型の投資信託を買う投資家よりも「まし」だが、配当へのこだわりがポートフォリオの歪みをもたらしかねない点について、自覚的な注意が必要だ。

必要なのは分散投資

 個人的に、高齢者の配当株投資で思い出すのは、12年前に筆者の自宅付近にあった家族経営的な鰻屋の高齢男性だ。彼は、かつては鰻を焼いていたのかもしれないが、当時は既に高齢で配膳の仕事をしていた。

 筆者と友人が鰻の焼き上がりを待つ間に熱燗を持って来た彼の問わず語りを聞くと、彼は、老後の生活のために貯めてきたお金の大半を東京電力の株式に投資したのだという。「配当のいい株式で、絶対に安全な会社だと思って東京電力を選びました」と言う。「しかし、大変な事になりました」。

 読者もご存じのように、東京電力は福島の原発事故で大きく株価を下げてしまった。一方その頃から、鰻の仕入れ値がどんどん高騰していた。数ヵ月後にその鰻屋は店を畳んだ。彼がその後どうしているのかは分からない。