韓国政府は22日、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を破棄することを決めた。韓国政府がこの決定を下したのは、破棄によって日本に打撃や損失を与え、輸出優遇対象国(ホワイト国)除外や元徴用工の問題をめぐる交渉を有利に進める「レバレッジ(てこ)」を得られると考えたのだろう。だが実際には、GSOMIAからより直接的に利益を得てきたのは韓国だ。これを破棄してまで、韓国が何を目指すのか、そのゴールはまったく見えない。(東京大学東洋文化研究所准教授 佐橋 亮)
韓国的にもありえなかった
GSOMIAの破棄
筆者はアジア太平洋の安全保障問題を扱う中で、韓国の安全保障分野の専門家(学識者、政府高官)と長く意思疎通をしてきた。韓国の専門家も政治立場はさまざまだが、それでも共通していたのは「日韓間の政治関係と安全保障関係は別個の問題」という考え方だ。特に日韓の政治関係の悪化によるGSOMIAの破棄は「ありえない」という見方がスタンダードだった。
例えば著者はソウルでの意見交換の場で、「日韓間のGSOMIAは1年更新である。『今年は更新されないかもしれない』という不安要素を常に抱えているのではないか」と指摘したことがある。これに対する韓国側の国防関係者の答えは「GSOMIAだけは政治問題化することはない。心配する必要はない」というものだった。それほどに、GSOMIAは韓国にとって、安全保障上の重要な基礎条件だったのだ。