米国で景気後退観測が浮上している。過去の大統領選挙の経験からすれば、景気後退はトランプ大統領の再選にとって大きな障害になるはずだが、常識を破って当選した大統領だけに、「不景気でも再選できる」という賭けに出る展開が懸念される。(みずほ総合研究所欧米調査部長 安井明彦)
再選に景気後退は鬼門
歴代大統領に見える傾向
景気後退の予兆といわれる長短金利の逆転(逆イールド)をきっかけに、米国の景気後退の可能性を巡る議論が活発になっている。米中摩擦に関する不透明性の高さのみならず、欧州経済をはじめとする世界経済の弱さなど、景気の先行きには懸念材料が目立つ。米国の株価は、各国の政策動向や経済指標を材料に、不安定な動きが続いている。
不安なのは、トランプ大統領も同じだろう。表向きは景気の底堅さを強調し続けているトランプ大統領だが、その一方で、有力企業の経営者に電話でヒアリングを行うなど、景気の行方を気にかけている様子が報じられている。
大統領が神経質になるのは当然だ。再選を目指す大統領にとって、景気後退は是が非でも避けて通らなければならない鬼門である。過去の経験に従えば、景気後退はトランプ大統領の再選を危うくする災厄となるはずだ。
米国の大統領選挙は、圧倒的に現職大統領に有利である。1860年から2016年までの40回の大統領選挙を振り返ると、現職大統領が再選を目指した22回の選挙のうち、再選に失敗した事例は7回に止まる。その勝率は、約7割に達する計算だ。一方で、現職大統領が出馬しなかった選挙の場合には、同一の政党が大統領の座を守った割合は4割強に過ぎない。現職の強さは明らかだ。
有利なはずの現職大統領が再選に失敗したのは、景気後退に見舞われたときだけである。過去40回の大統領選挙で、現職大統領が再選に失敗した7回の選挙は、いずれも投票日から遡って1年以内に景気後退を経験している。