カントは殺人鬼にどう答えるか?
「私なら、殺人鬼に『さっき向こうで見ました』と答えます」
「ほう、それは真実かね?」
「はい、真実です。ただし、見たのは3日前の話ですが」
「なるほど。だから、殺人鬼がその場所に行っても家族はいないし、そして、自分自身も嘘はついていないと」
倫理はこくりと頷いた。
「ふむ。今の彼女の回答、実はカントと同じものなのだが、正義くんは、今の答え、どう思ったかな?」
「………………」
どうって機転が利いてるし、その状況においてはベストな回答のように思える。
でも……。
「彼女は、嘘をついていないと主張するが、正義くんもそう思うのだろうか?」
その言葉に僕の心は決壊する。ミユウさんの一件。ずっと引っかかっていたこと。僕は言ってしまう。
「いいえ、それは嘘だと思います。人を騙してることに変わりはないと思います」
僕の回答に、倫理は驚いた顔をした。もちろん、本当のことを言えばいいとも思わない。でも、明らかに騙す意志があったのに、自分は騙してないと言い張るのは、なんだか違う、それこそが倫理に反している気がするのだ。
次回に続く