“世界一厄介な課題”と言われる「宇宙ゴミ(スペースデブリ)」に挑む日本人起業家がいる。アストロスケール創業者兼CEO、岡田光信さんだ。2013年、資金も人脈も技術もない40歳が始めた「無謀な挑戦」は、たった6年で150億円を超える資金を調達して独自技術と世界初のビジネスモデルを構築し、さらに2020年の半ばにはスペースデブリ除去実証衛星の打上げも控えている。そんな“宇宙起業家”が自身の思考の原則を初めて明かした『愚直に、考え抜く。』から、反響の大きかったノウハウをご紹介する。今回は、何かを始める際に使える「手持ちのカード」という考え方をご紹介しよう。

ダルムシュタット市の文具店で購入したアルファベットで綴った「ASTROSCALE」の文字。購入して10日後に起業した

何もなくても挑戦は始められる

 何かを始めようとするとき、実は自分が何も持っていないことに気づく。そして一度絶望する。人脈がない、お金がない、技術がない、法律が整っていない、必要な言語が話せない、体の自由が利かない、諸事情で時間がない……。「あるべき姿」に至るために、千里の道を歩こうとしているので、最初から武装しておきたい気持ちはわかる。

 けれども、何もないときにも何かがある。それこそが自分なりの「あるべき姿」という明確なビジョンと意志である。つくる未来のイメージである。

 私は2013年4月下旬に、ドイツで開かれた「European Conference on Space Debris(欧州スペースデブリ会議)」に参加して、スペースデブリ問題の重大さと、まだ誰も解決策を見つけていないことを知った。

「あるべき姿」を見つけた私は、その場で会社名を考え、ダルムシュタット市の文具店でアルファベットを買って文字を並べてみた。その10日後に創立したのがアストロスケールである。

 私にあったのは、2000万円の貯金、JAXAにいるひとりの知り合いぐらいだったと思う。宇宙エンジニアではなかったし、チームもない。宇宙業界のことも知らない。

 加えて、そのドイツの会議で出会ったスペースデブリの専門家たちからは、

「誰がお金出すの? 市場がないよ」
「技術がない」
「法規制が整っていないから難しい」
「君はお金持ちなのかい? 莫大な費用がかかるってわかってる?」
「宇宙機関が検討しはじめているので、民間、ましてベンチャーにやる余地はないよ」

 などと、親切にやめたほうがよい理由を多数いただいた。

「市場がないよ」と言われて、私は考えた。これはバッドニュースだろうか、それともグッドニュースだろうか。私には、グッドニュースにしか思えなかった。それまでIT企業を経営しており、市場がある世界にいた。いつも競合に囲まれていた。しかし、市場がないということは競合もいないということだ。市場がなければつくればいい。ブルー・オーシャンを見つけた気がした。「あるべき姿」というカードしか持っていなかったにもかかわらず、行動した結果、誰もいないマーケットにたどりつけたのだ。

あなたの「手持ちのカード」は何ですか?

「あるべき姿」に出会った瞬間、約1年続いた私の「中年の危機」は唐突に終わりを迎えた。お金のため(すなわち損/得)でも、正義感(すなわち善/悪)でもない。ワクワク感が私を突き動かしていた。

 あなたが今持っているカードはなんだろう。チーム、技術、資金、そういったものがひとつでもあれば相当ラッキーだ。でも、もし何もなくても、明確なあるべき姿とワクワク感があれば、それで十分だと思う。

 手持ちのカードから始めよう。少しずつ手に入れていけばいい。私が、「あるべき姿」だけで始めたように。人材、技術、資金、情報が国境をまたいで、いつでも24時間手に入れられる時代なのだから。