「何かに熱中したい」「自分にしかできないことを見つけたい」けれど、「何に『人生』を賭ければいいのか」がわからない。そんな全人類共通とも言える悩みに、15年にわたる苦労の果てに1つの答えを見つけた、起業家の登竜門「モーニングピッチ」発起人で知られるトーマツベンチャーサポートの斎藤祐馬氏。
著書『一生を賭ける仕事の見つけ方』で、「自らのミッションを見つけ、それを仕事にする方法」を披露している――そう聞くと、「難しそうだな」「どうせ大変なノウハウに違いない」と思われるかもしれません。しかし、斎藤氏によると、「ミッション」を見つけるには、2つのコツがあるといいます。人生のミッションは「仮決め」でいいと言い切る、その真意とは?

ミッションは「ピボット」で探そう
――「山」を変えずに「登り方」を変える

 自分のミッションをいかにして見つけるか――。

 それが、ミッション志向の人生を歩むための最初のステップだ。

 周りの友人知人の話を聞くと、その時点で躓いている人が少なからずいる。

 自分も何か、人生を賭けて取り組める仕事をしたい。でも、それが何かわからず悩んでいるという。

 けれど、ミッションは、最初から完璧なものをつくる必要はない。というよりもむしろ、完璧なものをつくったつもりでも、後から変わってくるのが常だ。ミッションは「仮決め」で十分なのだ

 トーマツベンチャーサポート(TVS)の場合も、時間とともにミッションも変化・成長してきた。最初は「ベンチャー支援」に狙いを絞っていたけれど、今ではそれが少し大きくなって、「挑戦する人への支援」が中心軸になっている。

ただし、最初に登ろうと決めた山(テーマ)そのものを変えてはいけない。

 よくありがちなことに、ミッションを仮決めし、いざ自分で動き出してみたものの、どうにもうまくいかないからという理由で、世の中で流行っていることや話題になっていることに、目標をシフトさせてしまう人がいる。

 社会には解決すべき課題やニーズは数多く存在する。けれども、そこに挑む明確な理由が自分の「原体験」になければ、そのテーマに長い時間をかけて挑んでいくことはできない。

 ミッションをライフワークにするためにも、自分の人生の「原体験」や「価値観」から導き出したテーマ(山)の大枠は変えてはいけない。変えていいのは、山の「登り方」だけだ。あるいは、TVSの場合のように、テーマを一段抽象化して、山そのものを大きくするのも1つの手だろう。そうやって走りながら、ミッションを日々ブラッシュアップしていけばいい。

 このことを僕は、バスケットボールによくたとえる。バスケでは、ボールを持って3歩以上歩くと「トラベリング」という反則になる。でも、片足を動かさず軸にして、もう片方の足だけを動かす「ピボット」ならルール上問題はない。

 それと同じように、ミッションを定める際も、「トラベリング」をしてはいけない。たしかに、隣の芝生は青く見えるものではあるけれど、マーケットが大きそうだから、あるいは稼ぎがよくなりそうだからという理由で、事業や仕事を選ぶのであれば、それはとてもミッション志向とは言えない。

ミッションを定めていざ走りだしてみて、どうにもうまくいかないときは、「ピボット」でミッションへのアプローチを変える。そのことをよく覚えておいてほしい。

具体的な「数字」が、
あなたのエンジンに火をつける

 もう1つ、ミッションを定めるうえで押さえておきたいポイントがある。

 それは、先ほどの抽象化とは対照的に、テーマを定量化・具体化するアプローチだ。

 例を挙げると、TVSの学生アルバイトとして、愛媛大学から学生がやってきたことがある。その学生、武田知大は地元が大好きで、とにかく地元を盛り上げたいという熱い思いを持っていた。生まれ育った地元が人口流出で活力を失っている。その危機感が彼にとっての「原体験」で、愛媛を活気あふれる場所にしたいというのが、彼のミッションの原型だった。

 ただ、「地元を盛り上げたい」だけではテーマがどうにもぼんやりしていて、具体的に何をすればいいかがよく見えてこない。それは、彼の話を聞いている周りの人間だけでなく、当の本人にとっても同じだった。彼は熱い思いを抱えていながら、その思いをどうすれば実現できるのか、心の火種を燻らせていた。

 そのとき僕が彼にアドバイスしたのが、「目標を定量化してわかりやすくすること」だった。彼とは通勤に同じ路線の電車を使っていたこともあり、仕事帰りに車内であれこれ議論を交わした。そのなかで見えてきたのが、「愛媛で10年以内に100の事業を興す」という目標だった。

 目標が定まると、彼の気持ちにも行動にも俄然スイッチが入った。あれから3年、彼は子ども向けのデジタルものづくり教室「テックプログレス」を立ち上げた。その取り組みは全国紙でも紹介され、彼も四国では有名な存在になりつつある。

 ミッションが明確に定まると、彼のように迷うことなく走りだせる人は多い。

 僕の実感では、誰しも人は、心のうちに自分の人生を走るためのエンジンを持っている。

 ただ、ミッションが定まらないと、どこに向かって走ればいいかが見えてこない。その間、エンジンはアイドリング状態にある。ミッションは、自分がもともと持っているエンジンを活かし、さらには自分の人生を能動的に生きるためのマップの役割も果たすのだ

自分だけのミッションを見つけるさらなる方法「感情曲線」「原体験ワークショップ」を知りたい方は、『一生を賭ける仕事の見つけ方』第1章をご覧ください(構成:編集部 廣畑達也)