業界が決断を先送りにしてきたエチレン設備削減に国内最大手がついに踏み込んだ。一方で多角化経営の象徴であるヘルスケアなどにさらなる投資意欲を見せる。総合化学の雄はどこへ向かうのか。
6月11日、多くの石油化学業界関係者が国内石化再編はもはや先送りできないと自覚したことだろう。この日、国内化学最大手の三菱ケミカルホールディングスが合成樹脂など石化製品の基礎原料であるエチレンの生産設備1基を2014年に停止することを発表した。国内でのエチレン設備の削減は、01年以来となる。
日本のエチレン生産能力は年間約750万トン。うち内需は約500万トンで、残りは中国などに輸出している。しかしながらコストが安い中東勢などの低価格品が増え、北米では原油よりもコストの安いシェールガスが新たな原料として台頭。原料コストの高い国産エチレンが今後ますます輸出競争力を失っていくのは必至となっている。
海外で戦えない国産エチレンは内需に合わせ生産能力を縮小するべきなのはわかり切っているが、国内各社は目の前のシェア低下を恐れて決断を先送りしてきた。そんな中で小林喜光社長はかねて「エチレン設備は国内に15基あるが、内需に対して設備の3分の1が余剰だ」と公言してきた。そして国内勢で心中しかねない危機感を募らせ、ついに先頭を切って設備削減を実行に移したのだ。
三菱ケミカルは国内にエチレン設備を3基持ち、1基は水島(岡山県)、2基は鹿島(茨城県)にある。水島では11年に旭化成が持つエチレン設備との一体運営による合理化に着手し、今回さらに鹿島を1基に絞り込む。これは自社が持つ生産能力約120万トンを3割縮小することを意味した。
構造改革の必然性は業績を見れば明らかだった。
図(1)にある売上高の内訳と推移を見ると、エチレンなど石化が主力の素材部門は総売上高約3兆円の半分を占める中核事業である。にもかかわらず、図(2)の部門別営業利益の推移を見ると、素材部門は利益額の変動が大きい上に08年度(09年3月期)、09年度は赤字。景気などの外部環境に販売数量や価格が大きく影響を受ける宿命にあるからだ。その上、商品の国際競争力が低下すれば採算はさらに悪化していくことになる。