この当時、米財務省もクアルコム側アドバイザーの法律事務所宛てに勧告を出しています。そこには、「米国防総省の国防プログラムはクアルコム製品に依存している」「クアルコムが買収されることは米国の安全保障上の脅威となる」、さらにファーウェイの名前を挙げた上で「中国企業に5Gを支配されることは米国の安全保障に重大な悪影響を及ぼす」といったことが記載されています。中国への警戒とテクノロジーの保全に対する米国の明確な意思が見いだせます。

 こうして18年3月、米政府は中国に対して通商法301条による制裁を決定しました。大統領権限で強力な貿易制限をかけるもので、このときも中国の産業政策によって米国企業の買収や投資が行われ、先端技術や知的財産が移転されていると主張しています。

 この一連の流れで注目すべきは、ペンス米副大統領が18年10月に保守系シンクタンクのハドソン研究所で行った対中政策に関する演説です。ペンス氏は国家安全保障戦略にも触れつつ、中国が「中国製造2025」によって先端技術を支配しようとしていること、米国の知的財産をあらゆる手段で獲得しようとしていること、民間技術を軍事技術に転用していることなどを指摘しました。「ペンス演説」と呼ばれるこの極めて強い対中批判は、この後に続く米中貿易戦争激化の一つの契機といえます。私はこの1カ月後に米ワシントンで、ペンス演説の感想をシンクタンク関係者や大学関係者に聞きました。このときはこの発言がここまでの関税報復合戦に発展するとは、誰も予想していなかったように思います。

 このように、米国はテクノロジー分野で急成長する中国を明確に脅威と見なしてきました。この過程は中国が、かつての韜光養晦(とうこうようかい、目立たないようにして力を醸成する)を守るのではなく、経済と軍事をけん引するテクノロジーを持った大国としての姿を現した数年でもありました。米国によるファーウェイへの直接的な制裁は今年、突然に起きたことではなく、そこに至るまでの経緯がありました。日本企業は「結局は政治次第」となりつつある国際情勢の中で潜在的なリスクを常に意識しておく必要があります。

(本稿は筆者の個人的見解であり、所属する組織・団体の公式見解ではないことをご了承ください)