プラットフォーマーが国家に挑戦する時代の「ビジネスの必須知識」とはPhoto:Photographer is my life./gettyimages

米中対立を受けたファーウェイ(華為技術)問題、フェイスブックの暗号通貨リブラに対する各国政府の批判――国際政治とテクノロジーが、ビジネス上の大きな要素となってきました。企業努力で懸命に創出した利益が関税によって一瞬にして消え去ること、重要なサプライヤーとの取引が経済制裁によって停止になることも十分想定されます。国際政治とテクノロジーの知識は、ビジネスに関わる人にとって必須となっています。(経営共創基盤取締役マネージングディレクター 塩野 誠)

ファーウェイは経済問題か? 
それとも安全保障問題か? 

 本稿では国家や、企業など非国家アクターによるデジタルテクノロジーを巡る攻防の背景を、ビジネスの実務家の視点で探ります。私は北欧のフィンランドに在住し、次世代の移動サービス・MaaSの発祥の地であるフィンランドや、電子政府が注目を集めるエストニアなどを拠点に、北欧・バルト海地域の先端テクノロジーやロシア企業への投資を統括しています。日本では海外のM&Aや競争政策の政府関連委員を務めたほか、人工知能学会倫理委員会にて倫理指針策定に関わるなどしてきました。

 この立場から見えてきたのは、国家によって生まれたテクノロジーが「巨大化」し、テクノロジーによる経済や安全保障のパワーを国家同士で奪い合う状況です。この攻防には次世代通信ネットワーク(5G)やGAFAと呼ばれるようなITプラットフォーマー、暗号通貨、人工知能(AI)などが関係します。通常は個別の問題として語られるこれらを、私は国家対デジタルテクノロジーの文脈で統合的に分析します。

 ファーウェイ問題は経済問題か、安全保障問題か?という論点があります。米トランプ政権の振る舞いに見られるように、経済貿易と安全保障は政策としてパッケージ化されているのが現実です。よって答えは経済問題かつ安全保障問題であり、両方の政策担当者が関わる事象です。

 各国から「経済制裁や関税の兵器化」は避けるべきとの声があります。しかし現実には、二大大国の米中が関税による報復合戦を演じています。2019年9月現在、米国は中国に対し5000億ドル相当(約52兆円)を関税対象とし、中国側も米国に対し750億ドル相当(約8兆円)を関税対象としています。関税の中にはまだ実行されていないものもありますが、米中の関税率は20%近いとみられます。米国による中国製品のリストは122ページにも上ります(出所:19年8月の米クオーツの報道)。 各国が経済力、軍事力、そしてデジタルテクノロジーの領域であらゆる手段を使い、米中を筆頭に覇権争いをしているのが現在の国際情勢です。