「ナンバー2の背中」を見せるために、7台のセスナをチャーター
山下誠司（やました・せいじ）（株）アースホールディングス取締役（株）サンクチュアリ代表取締役
日本最大級の240店舗を展開する美容室「EARTH（アース）」を運営する、（株）アースホールディングス取締役[スタッフ3000名、年商180億円]。うち70店舗をフランチャイズ展開する、（株）サンクチュアリ代表取締役も兼任。（株）サンクチュアリは、自社から輩出したフランチャイズ30社とともに、関東、甲信越、東海、北陸、北海道、福岡で展開[スタッフ900名、年商50億円]。1976年、静岡県生まれ。高校卒業後に上京し、19歳で年収180万円から美容師を始め、31歳で年収1億円を超える。19歳から23歳まで、ほぼ休みなく仕事をし、24歳から39歳までは、始発から終電まで365日、15年間、1日たりとも休みなく仕事。40歳からは、仕事と遊びの壁が、完全になくなる。愛車は、フェラーリ488スパイダー。趣味は「仕事」。
今から15～16年ほど前、私が「ナンバー2」としての役づくりに力を入れていた時期があります。
サイパンに社員旅行に行ったときのことです。私は25人の部下を連れて、サイパン島から船で1時間の場所にある「テニアン島」に向かいました。カジノに行くためです。
「EARTHのカジノ王」と呼ばれていた私は（笑）、その名に恥じぬ結果を出し、ルーレットで、なんと、「350万円」も大勝ちしたのです！
当時から私は、「ギャンブルでの儲けを持ち帰ると、運が逃げる」と思っているので、「全額、部下への慰労金として還元しよう」と考えていました。
その日は、勝った350万円で、部下25人とともに、テニアン島のリゾートホテルに宿泊する予定でしたが、夜、サイパン島にいる國分社長から、電話が入りました。
「今から、部屋飲みをするよ」
國分社長は、私たちがテニアン島にいることを知りません。仮に私が「今、テニアン島にいるので」と事情を説明すれば、「そうなんだ、わかった。テニアン島の夜を楽しんで」と言ってくれたでしょう。ですが私は、そのことは告げずに、「今から行きます」と返事をしました。「トップに誘われたら、ノーはない」がナンバー2である私の信条だからです。返事は、「はい」か「イエス」か「喜んで」しかありません。
とはいえ、すでに夕方の最終便の船が終わり、この時間に、サイパン島に戻る船は出ていません。焦った私は、「サメのいる海を泳いで渡ろうか」と本気で考えたほどです。
ホテルのコンシェルジェに事情を説明すると、「たったひとつだけ、サイパンに戻る方法がある」と教えてくれました。その方法とは、「セスナをチャーターすること」です。部下を全員セスナに乗せるには、4人乗りのセスナを「7台」チャーターしなければなりません。チャーター費用は、「100万円以上」かかります。それでも私は、迷わず、セスナに乗ることを即決しました。
7台のセスナが飛ぶ姿は、まるで、「軍隊の編隊」のようでした。ところが……、やっとの思いでサイパン島に戻り、急いで國分社長の部屋に向かったものの、大勢の社員が、所せましと座っていて、部屋に入ることができません。國分社長からは、「到着したの？ 満員だから、山下さんの部屋で飲んでいて」と言われました。結局、私たちは、わずか「1分」で部屋を出たのです（テニアン島にいたことを、國分社長には最後まで伝えませんでした）。
「『テニアン島にいるので今日は戻れません』と國分社長に説明すればいいのでは？」
「セスナをチャーターしてまで、社長と飲む必要があったのか」
と疑問を口にする部下もいました。けれど私には、「部屋飲みに参加しない」という選択肢はありませんでした。なぜなら、「どんな状況でも、トップの方針に従う」のが、ナンバー2の役割だからです。部下に「ナンバー2の背中」を見せる意味でも、戻る必要があったのです。
たとえ1分で解散することになっても、慌てず、ひるまず、何事もなかったかのように振る舞う私を見て、部下たちも、「トップの決定は素直に聞き、即、実行に移す」という「ナンバー2のあり方」を感じてくれたと思います。なぜなら、その日以降、私の指示を素直に受け入れ、実行する部下が増えたからです。「何が正しいかではなく、何が大事か」なのです。
目標となる人を自分で決め、その人の基準をそのまま取り入れる。その人と同じように考え、同じように行動してみる。「人は外面より内面」とか、「外面ばかり磨いてはダメ」と言われますが、内面を重視したいのなら、なおのこと「役割」を演じて、言動を変えるべきだと私は思います。
「スッピン」でいるかぎり、今の自分を超えることはできません。
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