8月29日、横浜市営地下鉄ブルーラインで起きた脱線衝突事故は、運転士の居眠りが原因だった。横浜市営地下鉄だけでなく、鉄道会社では「4時間仮眠で18時間勤務」というようなシフト勤務が一般的で、運転士はもちろん、車掌や駅員らも慢性的な睡眠不足になりやすい。(鉄道ジャーナリスト 枝久保達也)
「4時間仮眠で18時間勤務」は
鉄道業界では一般的
8月29日に横浜市営地下鉄ブルーライン踊場駅の引き込み線で発生した脱線衝突事故。折り返し列車の運転士が居眠りをしたためブレーキが操作されず、車両は車止めを突破してトンネルの壁に衝突した。同線では6月にも工事用車両の移動に使う「横取り装置」を職員が撤去し忘れたために、始発列車が乗り上げて脱線する事故があったばかりで、利用者の間に不安の声が広がっている。
横浜市交通局によると、運転士は28日15時34分から29日10時17分までの勤務で、同日1時ごろから約4時間の仮眠をとっていた。乗務前の点呼やアルコール検査では異常は確認されなかったという。マスコミが「4時間の仮眠で18時間勤務」と報じたこともあり、SNSなどでは横浜市営地下鉄の労働環境に問題があるのではないかという反応も見られたが、このような勤務形態は鉄道業界ではごく一般的なもので、多くの鉄道事業者は泊まり勤務の仮眠時間を4~5時間と定めている。
4時間という仮眠時間は、1947年に制定された労働基準法の施行規則で「一昼夜交替の勤務に就く者については、夜間連続4時間以上の睡眠時間を与えなければならない」と定められたことに由来しており、今に始まった話ではない。景色のないトンネルを走る地下鉄の運転士にとって眠気との戦いは宿命のようなものともいわれるが、ほとんどの運転士は事故を起こさずに日々勤務していることも事実である。
そもそも今回の事故は、居眠りというヒューマンエラーを、機械がバックアップできなかった結果である。通常、地下鉄が営業運転で使用しているATC(自動列車制御装置)は、列車が衝突に至る前に自動的に停止するようになっている。今回は引き込み線という非営業区間であったために、そうした備えが十分ではなかったことが最大の原因であり、安易に睡眠不足を事故原因と結び付けることは、議論をミスリードしかねないことを指摘しておきたい。