村津は続けた。
「あなた方が危惧しているように、日本は様々な自然災害の危険性をはらんでいます。しかし、政府は黙っていたずらに時を重ねてきたのでもありません。この国はかつて、多くの困難を乗り越えてきました。あなた方にとってはもどかしいかもしれないが、日本も次のステップに乗り出そうとしているのです」
「新首都は、まずどこに造るつもりなのですか」
ダラスが村津に聞いた。部屋中の視線が村津に集まった。
長谷川も早苗も移転場所については知らないのだ。理沙が全身の神経を聴力に集中しているような顔で村津を見つめている。
「それはここでは言えない。しかし日本は狭いようでまだまだ恵まれた地を多く持っています。安全で機能的で日本の中枢たる美しい土地です」
「かつての候補地の一つですか。たしか四つありましたね」
理沙が聞いた。
「国民の心が一つになれること。どこであろうと、そう思える場所が新しい首都となるのです。さて、ここでの話、また皆さんが今日見たことについては他言無用です」
村津はダラスと理沙に再度言った。
「日本政府が無策ではないことが分かっていただけましたか」
森嶋は改まった口調でダラスに言った。
「私たちの評価はたしかな情報で形成されています。首都移転は大きなポイントにはなりますが、もっと確実なものでなくては難しいでしょう」
森嶋は返す言葉がなかった。村津も同じだろう。
たしかにその通りなのだ。この模型以外にたしかなものは何一つない。これで世界に影響をおよぼす一国の評価など出来るはずがない。