「道州制はご存じですかな」
そのとき、村津の背後から殿塚が出てきた。
「早く言えば、あなたの国の模倣です。日本を現在より大きな地区に分けて、それぞれの特徴を生かしながら、政治力、経済力を強めて自治制を高める。責任ある地方区となってもらうことです。そうすれば中央政権は出来る限りコンパクトにすることが出来る。小さな政府の実現です。首都移転には欠かせないことです」
ダラスはしきりに頷いている。しかし真の胸の内は分からない。
「私の言いたいことは、日本は変わろうとしているということです。首都移転と共に明治以来続いているこの古い体制を変えるのです。そのためには、今ここで潰れるわけにはいかんのです。なんとか我々の志を分かってほしい」
殿塚の声と表情には迫力があった。長年の政治家としてのキャリアが重厚さと真実味を与えるのだろう。他の政治家には見られないものだ。森嶋は村津の言葉を思い出していた。
殿塚に、必ず新しい首都を見てほしいと思った。
時計を見るとホテルを出てから2時間がすぎている。
森嶋は新首都の模型に見入っているダラスを促して、長谷川の事務所を出た。
森嶋はダラスを送ってホテルまで戻った。
タクシーを降りて別れるとき、ダラスは森嶋の差し出す手を強く握り返してきた。しかし森嶋を見つめる目は、決して甘くはないことを示している。
ダラスを降ろして、タクシーは理沙の新聞社へ向かった。