「そうなの?まあ今さらいいや。嫁の方が真っ当だから、嫁の名字で育った方が子どもも幸せだと思う」

 と切なげなことを言っていた。

戸籍上の名前を
変えたくない

 Bさん(40歳女性)は、この人もバンドマンだがジャンルはAさんと違ってメロディックなパンクで、Aさんのようないかつさはないが、独特の浮世離れした雰囲気をまとった人物である。

 仕事は事務で、日が暮れて退勤すると“もうひとりのBさん”の時間が始まる。占いへの造詣が深く、知人の伝手で紹介されてきた相談人が断続的に彼女の元を訪れる。同い年の夫CさんはBさんと同じバンドに所属していて、普段は介護士の仕事をしている。

「戸籍上の名前を変えたくないというのが一番大きかった。今までの自分の名前に愛着もあったし。周りからは『そんなことで?』と思われるかもしれないけど、私にとって姓が変わることは一大事だった」(Bさん)

 なるほど、Bさんは確かに珍しい名字で、本名がそのまま芸名として使えそうなくらい響きの良さがあった。姓名判断もよかったらしい。しかしCさんの姓に変えると響きはだいぶ平凡になってしまうし、姓名判断もあまり芳しくない。占いに重きを置くBさんにとって姓名判断は重大な託宣であった。

 夫であるCさんは、Bさんの「改姓したくないから事実婚がいい」という希望にあっさり同意した。結婚を機に同姓にすべきか、Cさんが婿養子に入ってBさんの姓に合わせるべきか、このあたりについてCさんはBさんに相談したが、Bさんは「なんか悪いし、事実婚なら夫婦別姓でいけるから2人ともこのままでいい」と答えて落着を見た。