消費増税時、軽減税率対応の新型レジを導入する体力のない中小事業者が続々と倒産する――。前回の増税時同様、今回もそんな懸念をする人が多い。しかし、経営者には気の毒だが、レジ導入が倒産のきっかけになるような弱った企業は潰れた方が、日本の労働者の賃上げのためにはよいともいえるのだ。(ノンフィクションライター 窪田順生)

消費増税時に多発する!?
「レジ倒産」とは

消費増税時に新型レジを導入できない中小事業者も少なくありません。前回の増税時同様、新型レジを導入できずに倒産する中小事業者が多いという懸念があるが、これは本当に「悪いこと」なのだろうか? Photo:PIXTA

 果たしてこれは、前回の消費増税時に見られた「レジ倒産」の再来なのか――。

 消費増税を目前に控え、多くの事業者が飲食品などの軽減税率を簡単に打ち分ける新型レジの導入を進めているのだが、中小事業者に限っては、なかなか普及していないようなのだ。

 経産省は制度開始直前の9月末時点で、中小事業者に導入される新型レジが24万台前後になる見通しとしている。一方で、中小店舗向けに新型レジ購入の補助金が用意されているのだが、8月末時点での申請は約12万6000件にとどまっている。当初は30万件の申請を想定していたというので、半分以下ということになる。

 また、「中小企業三団体」のひとつ、日本商工会議所が5月から6月にかけて新型レジ導入について調査したところ、「未着手」と回答したのが、売上高1億円超の大規模企業の場合は20.6%にとどまったが、5000万円以下の中小事業者になると、45.5%と過半数近くに上っている。要するに、規模の小さな事業者は設備投資もできないので、新型レジの導入に二の足を踏んでいる可能性があるのだ。

 そう聞くと、「レジ倒産」という言葉が脳裏をよぎる方も多いかもしれない。実は2014年の前回の消費増税時、新型レジの導入ができずに会社をたたむしかない、というなんとも痛ましい話が注目を集めたのである。

 きっかけは、2014年4月1日、東京商工リサーチが流した、新潟県のあるスーパーの倒産速報だった。

 この従業員25名のスーパーは多店舗展開をしていたが、競合の出店で業績が悪化。数年前から金融機関の支払いも滞り、4億4000万円の負債を抱えて破産申請した。そんなありふれた倒産劇が、なぜ注目を集めたのかというと、この速報に「消費増税関連で初の倒産」というキャッチがつけられていたことに加えて、以下のような一文が入っていたからだ。

「業況が好転しない中で電気料金の値上げに苦しんでいたうえ、使用するレジが旧式なため4月以降の消費税率変更に際し対応できず、新規の設備投資もできない状況に陥っていた」