参院選で珍しく、与野党で一致している稀有な政策が「最低賃金の引き上げ」。しかし、韓国では最低賃金を大幅に引き上げたところ、失業率が悪化したと報道されている。「日本も韓国の二の舞になる」と心配する意見も少なくないが、両国の事情はかなり違う。この心配は杞憂に終わるのではないだろうか。(ノンフィクションライター 窪田順生)

与野党ともに公約している
「最低賃金の引き上げ」

最低賃金引き上げは日本の場合、むしろ生産性向上につながると期待されています最低賃金引き上げは、韓国のように失業率悪化につながる――そんな心配の声も上がっているが、韓国と日本ではそもそも産業構造がかなり異なる Photo:PIXTA

 舌戦が激しさを増す参院選で、珍しく犬猿の仲である与野党で一致している稀有な政策がある。

 最低賃金の引き上げだ。

「全国加重平均1000円」(自民党)、「ただちに全国どこでも時給1000円に引き上げ、すみやかに1500円に」(共産党)、「5年以内に最低賃金の1300円への引き上げ」(立憲民主党)と、金額に多少の違いはあるものの、最低賃金を引き上げていく気マンマンなのだ。

 これを受け、にわかに盛り上がっているのが、「最低賃金を上げたら日本経済はもっと悪くなる」派の人たちである。消費増税とのダブルパンチで零細企業がバタバタ倒れ、生き残ったところも雇用を減らすので、街には失業者が溢れ返るというのだ。

 もちろん、これには反論もある。代表的なのが昨今の「生産性向上」議論の先陣をきった、元ゴールドマンサックスのアナリストで、小西美術工藝社の社長を務めるデービッド・アトキンソン氏だ。

 アトキンソン氏によると、「最低賃金を上げたら失業率上昇」というのは新古典派経済学に基づく古い考え方で、すでにいくつかの国の調査で否定されているという。中小企業経営者がパニックにならない程度の引き上げは、生産性向上になるというのが「世界の常識」なので、日本も最低5%程度の引き上げをすべきだと提言している。

 確かに、アトキンソン氏の祖国・イギリスもかつては「英国病」などと揶揄されるほど、深刻な低成長に陥っていたが、1999年に最低賃金制度を復活させた後、引き上げに力を入れた結果、雇用抑制の効果も確認されず、1999年から2018年までの平均名目成長率は日本の約2倍となっている。