井上:リフレッシュ一番は、やっぱり睡眠でしょう。寝ることです。これに敵うものはない。
 ちゃんと睡眠がとれるというのは、すべてにとってプラスになり、リフレッシュになります。
 というのも、睡眠中だけは脳が休んでいるので、嫌なことを考えないですみますし、それだけでも十分価値のある時間です。
 ですから、寝れなくて困るという人が精神科の外来にはとても多いと思うんですが、そこを治していくのが僕の役割だと思っています。ちゃんと寝られるのは大事なことだとわかってはいても、軽んじられがちなのが睡眠でもあるという気はしています。

「全部はたぶん解決できへんけど、何でも言うてや」

後閑:精神科医が病気を悩んでいる人に接する時に、気をつけていることはありますか?

井上:僕はそんな時、すごく悩みますけど、どちらかというと最初からラフな感じを大事にしています。
 精神科は初めてという人には特にですが、精神科の雰囲気がわからないので、とても固いんです。初めて来た場所だし、プラスすごく怖いところという先入観があるから当然でしょう。
 けれど、それだと言いたいことも言えなかったり、こちらも本音が聞けなかったりするんですよね。これはお互いに結局マイナスです。自分も患者さん側も情報不足になるし、患者さんも言いたいこと言えなくなるし、お互いにとってよくない感じになりますから、少なくとも少しでも話しやすい雰囲気を出すことを僕は心がけてはいます。診察の時でも「何でも言うてや」って。

後閑:関西弁いいですね。「何でも言うてや」って。

井上:「全部はたぶん解決できへんけど、何でも言うてや」という感じでしてます。
 取り調べみたいになるのは違うと思いますし、絶対言いたいことが言えなくなります。僕はそこをすごく気にしているんですよね。言いたくなる雰囲気、意外と怖いところじゃないんだな、とまずは思ってもらいたい。言いたいことが言える雰囲があったほうがいいと思っています。
 これ言ってもいいのかな、あれ言ってもいいのかな、と話すことを選んでしまう患者さんもいるんですよね。絶対言っていいんです。
 話す内容を選ぶのはあまりよくないことですし、こちらもわからなくなってしまいますから、何でも言うてや、という感じでやっています。

後閑:たとえ全然関係ないことを話し出されても、自分を頼ってくれているんだな、と思ったりしますよね。

井上:そうです。できれば10秒でも20秒でも一瞬でも、雑談を挟みたい。その余裕の有る無しは結構大事です。

後閑:笑わせるために、先生がぼけたりもするんですか?

井上:ぼけもしますし、べたに天気の話もするし、最近話題の話もします。
 例えば、患者さんの服装がちょっと変わったりした時に、「これからどこかに行くの?」と聞いたりもします。全然関係ないことも含めて、ちょっと雑談を挟みたいというのが僕にはあるんです。
 結局それが、「何を話してもいいんだな」と思ってもらえることになります。
 患者さんの中には、「これ言っていいのかな?」「これ言っていいかわからないんですけど…」と前置きしてから話す方が結構いるんですよ。ですから、「何でも言って、自分が思うことなら何でも言っていい」という、話しやすさを僕は気にしています。

後閑:たしかに、私も井上先生とは初対面ですが、すごく話しやすいです。

井上:そこは気をつけているところです。患者さんは本当の主症状しか話さないし、でも僕らはそれ以外の情報も集めたかったりします。結局、特に精神的な疾患の場合には、背景も大事なんです。サポート体制とかね。
 一人暮らしなのか、家族と住んでいるのかといったことでも違ってきますし、こちらはそういうことを聞きたいんだけど、患者さんは「そんなん関係ないかな」と思っているから言わない。お子さんが何歳くらいとか、実際お子さんが大学入るということになってお金かかる時に仕事が休める休めないでこちらの対処も変わってくる場合があります。
 こんなこと言っていいかなと思うことでも言ってもらうことで、必要な情報が入ってくるということもありますから、それは一番気にかけていますね。

後閑:大事なことですね。だって、人生の悩みは健康だけじゃないですよね。社会的な問題だったり、精神的な問題だったり。だけど目の前に医師がいたら、患者さんは健康に関することしか話してはいけないような気がするのもわかります。

井上:精神疾患の背景には、社会的なこともありますからね。

後閑:何でも話しているうちに、たとえば精神科医だけでは解決できないことでも、それならこの人に頼るといいよとか、あそこに相談に行くといいよ、というアドバイスができるかもしれない。

井上:できますね。
聞いてもらったというだけでもプラスになることもありますから。