被害者や私たちが「おかしいと声をあげることで法律を変えられる」と実感したできごとでした。それでも、まだ重要な課題が残っています。それは、性犯罪の成立要件に「暴行、または脅迫(強制性交等罪)」「心神喪失、もしくは抗拒不能(準強制性交等罪)」が課されていることです。

弁護士の伊藤和子さん
伊藤和子さん。弁護士、国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ理事・事務局長で、同団体の設立にも関わる

 特に、暴行の程度は、4段階のもっとも強い暴行であることが必要とされています。これは公務執行妨害罪より暴行の程度が軽いとされています。つまり、現状では「無理やり性行為をされた」「意に反して性行為をされた」だけでは犯罪と認められません。

(本稿、冒頭の)名古屋地裁岡崎支部で父親が19歳の娘に訴えられた事件とは、娘は中学2年から高校を卒業するまで、父親によって週1~2回性的虐待を受け続けていただけでなく、専門学校入学後は週3~4回に増加し、娘が抵抗すると父親が殴る蹴るの暴行を加えていました。

 専門学校に進学するにあたって、娘は父親に入学金や学費、生活費を工面してもらっていたことから、父親は性的虐待に抵抗する娘に向かって、「金だけ取りやがって、何もしないじゃないか」と言ったそうです。

 裁判で父親は性行為には娘の同意があったと主張しましたが、裁判所は判決で(1)娘は同意していなかった、(2)父親から娘への暴力行為があった、(3)専門学校で学ぶにあたって、父親に学費や生活費の負担をしてもらっていた。その返済を求められたことで父親に経済的な負い目を感じていて、父親から娘への支配状態が強まっていた、などを認めました。

 それにもかかわらず、同地裁は準強制性交等罪で有罪が成立するための「抗拒不能」について「抗拒不能状態を裏付けるほどの強い離人状態(解離状態)にまで陥っていたとは判断できない」と認定しました。

 そして同罪を成立させるためには「生命・身体などに重大な危害を加えられる恐れがあった」「性交に応じるほかには選択肢が一切ないと思い込まされていた」という状態が必要であり、被害者はそういう状態だったとは判断されないため、無罪判決を出したのです。

 父親は刑事責任を負いませんでした。この裁判の結論は、平たく言えば「少しでも抵抗できる状態であれば、抗拒不能とは言えない」ということでしょう。

 あまりにも理不尽な結論ではないでしょうか。しかし、24年間、弁護士として活動してきましたが、このような事例は決して例外ではなく、性暴力の多くは起訴すらされず処罰されないままになっています。