年金は損得で
考えるべきではない

 このように年金の本質は「貯蓄」ではなくて「保険」なのだから、年金を損得で考えるのは間違いだ。仮に64歳で亡くなれば、ずっと保険料を払ってきたにもかかわらず、年金は一銭ももらえないから明らかに損だが、死んでしまえば損も得もない。逆に120歳まで存命でも、生きている間はずっと年金が受け取れるので、長生きすればするほど得になる。すなわち、いつ死ぬか、いつまで生きるかは誰にもわからないのだから、長生きした時のことを考えて、死ぬまで貰えることが保証されている年金というものが必要であり、単純に損得で考えるべきではないのだ。

 実際、損得だけを考えていたら保険には何も入れないということになってしまう。火災保険に入って何十年も火事に遭わなければ、それまでに払い続けた保険料はまるまる損だが、それを言ってもしょうがない。生命保険で大儲けとなるのは入った直後に死ぬことだが、死んでしまったのでは儲けも何も関係ない。

 若いうちから自分で老後に備えてお金を蓄えておくというのはとても良いことだが、子育てや教育、住宅といった目先の出費を考えると、現実には将来に備えて今の消費を我慢するというのはなかなか難しいものだ。だからこそ年金という制度が存在しているのだ。もちろん公的な年金に頼っているだけでは、十分に満足のいく豊かな生活はできないだろう。しかしながら、老後の生活をすべて自助努力で賄うというのも無理な話だ。やはり公的年金というのはとても大切なものなのだ。

 サラリーマンの場合は、自動的に年金保険料が給与天引きで引かれているので、将来、公的年金がもらえなくなるということはない。ところが自営業や非正規社員、フリーランスの人の場合は、自分で年金保険料を払い込まないと、いわゆる「未納」の状態になり、将来、年金が受け取れないということになってしまう。これは絶対に避けるべきだろう。

 世の中には「老後の備えは年金を当てにせずに自助努力で!」とか、さらにひどいのになると「年金は破綻するから保険に入ろう」とか「投資信託を買おう」といって勧めてくる金融機関もあるが、そういう勧誘に惑わされてはいけない。制度は正しく理解して、保険料はきちんと納め、その上で自助努力をすることが大切なのだ。決して順番を間違えてはいけない。

(経済コラムニスト 大江英樹)