午前10時、岩田正美氏の証人尋問が、熱気の中で始まった。この日、名古屋地裁のエアコンは、アスベスト点検のため動作していなかった。通常、法廷内での飲食は禁止されているが、裁判所職員は適宜の水分摂取を呼びかけた。また、裁判官や職員も水分を摂取しながらの公判となることについて、傍聴席に理解を求めた。法廷には5台の扇風機が設置されていたが、それでも上着を着ていられない暑さだった。文字通りの熱気に、傍聴者たちの熱い関心が加わっていたのである。

基準部会は国と無関係で
参考意見しか出せないのか

 訴訟は、2013年の生活保護基準引き下げに対して、「健康で文化的」な最低限度を保障していないという理由で、憲法第25条の生存権規定に対する違憲性があるとし、引き下げの撤回を求める内容だ。しかし生活保護法は、厚労大臣が裁量によって生活保護基準を定めることを規定している。

 少なくとも法的には、厚労大臣が“勝手に”生活保護基準を決めて構わない。結果として「健康で文化的」な生活を保障できなくなると、憲法と生活保護法に違反することになるけれども、法的な歯止めはない。

 とはいえ、「なんでもあり」というわけにはいかない。生活保護基準は、「日本の基本的な暮らしの基準」として、最低賃金、健康保険、医療、年金、所得税など、数え切れないほどの制度に影響を与える、重要な「参照基準」だ。このため、学識経験者による諮問機関や審議会を設置し、その答申や報告を踏まえて、厚労大臣が決定してきた。実際には厚労官僚が決定するのだが、厚労大臣の責任において判断する形となっている。

 ここで問題になるのは、生活保護基準部会の位置付けだ。基準部会が提言も議論も行っていない事柄を根拠として、厚労大臣が生活保護基準を変更することはできるのだろうか。国側は一連の訴訟で、基準部会をはじめとする審議会などの検討結果は、厚労大臣の「判断を法的に拘束」するものではなく、「考慮要素の1つに過ぎない」としている。要は「ただの参考意見」ということだ。