時給の上昇で強まるパートの就業調整
企業の家族手当が障害に

人事院「平成30年職種別民間給与実態調査」から試算

 パートタイマーの就業調整が強まっている。パートタイマーの労働時間は、時給の上昇に反比例して減少する傾向が見られる。人手不足が深刻化する中、最低賃金の積極的な引き上げもあり、パートタイマーの労働時間は第2次安倍内閣が発足した2012年12月から19年7月の間に1割近く減少した。

 背景には、いわゆる「103万円・130万円の壁」がある。サラリーマンの夫がいる妻が世帯の手取り所得を増やそうと働く場合、世帯主の配偶者控除が適用されなくなる年収103万円や、社会保険料負担が発生する106万円や130万円を意識して労働時間を抑える。結果として、各種制度が稼得能力を高める機会を減らし、将来の低年金者を増やす方向に作用している。

 税制上は103万円を超えても世帯の手取り所得が減少しないように配慮されている。だが、世帯主が勤める企業において、103万円などを基準に家族手当が支給されることが多く、それが実質的な「壁」を形成している。

 人事院が18年4月に行った調査によると、民間企業の55%が配偶者の収入制限のある家族手当制度を実施しているという。配偶者の収入制限を103万円とする企業割合は30%であり、130万円とする17%や、150万円とする4%を大きく上回る。また73%の企業が、配偶者に対する家族手当を見直す予定がないと回答した。

 個々の企業にとって望ましい選択が、経済全体に望ましくない結果をもたらしている。こうした「合成の誤謬」をはらむ問題では、政治の役割が一層求められる。政労使で課題意識を強めるなどして、制度の見直しを企業全体に働き掛けるべきだ。

 他方、106万円や130万円の「壁」は当面は残りそうだ。19年9月に厚生労働省が取りまとめた報告書では、企業規模要件の段階的廃止などを通じて、パートタイマーの厚生年金への適用を拡大させる方向性が示されるにとどまった。「壁」をなくすには大規模な制度改革が必要になるからだろう。だがそれを避けていては、就業調整の問題を更に悪化させかねない。

(大和総研シニアエコノミスト 神田慶司)