日本全体の平均賃金に対する
最低賃金の比率(2017年)

日本全体の平均賃金に対する最低賃金の比率(2017年)
平均賃金は内閣府「国民経済計算」の賃金・俸給を総労働時間で除して算出。最低賃金は2017年度の値

 最低賃金の引き上げに向けた議論が加速している。2019年6月に閣議決定された骨太の方針では、18年度で全国加重平均874円の最低賃金について、1000円の早期実現を目指す考えが示された。

 背景の一つに、最低賃金が国際的に見て低いとの指摘がある。例えば、経済協力開発機構(OECD)によると、17年において日本の最低賃金はフルタイム労働者の平均賃金の36%であり、50%のフランスや45%弱の英国、ドイツに見劣りする。

 だが、全雇用者の所得を総労働時間で除した一国全体の平均賃金で比べれば、最低賃金の姿が変わる。日本は38%と、40%のフランスをやや下回るが37%の英国並みであり、34%のドイツを上回る。

 日本のフルタイム労働者は「総合職」に代表されるように、職務遂行能力に応じて給料が決まることが多い。これに対して海外では、定められた職務内容に応じて給料が決まることが一般的だ。また、フルタイムとパートタイムの賃金格差や賃金の分布も、日本と海外で異なるだろう。これらを考慮すれば、日本の最低賃金は低いとは言い切れない。

 他方、働き手の長期的な減少が見込まれる日本では、最低賃金を引き上げていく必要性はある。単純労働への依存度が高い企業ほど、希少となる労働力の有効活用や省人化投資などが促されるからだ。無償で提供されているサービスの在り方についても問われることになろう。

 ただし、賃上げのペースには十分に注意を払うべきだ。最低賃金は3年連続で3%程度引き上げられたが、パートタイムの有効求人倍率は18年初に頭打ちとなった。日本経済のけん引役である外需は悪化しており、米中摩擦の展開は予断を許さない。残業時間の上限規制等が盛り込まれた働き方改革関連法は19年4月に一部施行され、10月には消費増税を控えている。

 こうした下で最低賃金を大幅に引き上げれば、消費活性化よりも、事業活動の縮小や労働需要の減少など従来見られなかった悪影響が目立ちかねない。経済実態に即した賃上げ率の検討が必要だ。

(大和総研シニアエコノミスト 神田慶司)