
神田慶司
参院選では家計支援策として与党が「現金給付」を掲げ「食料品消費税ゼロ」「消費税率一律5%」などの消費減税を訴える野党と対峙する構図だが、物価高対策として過剰だったり対象が絞られていなかったりとバラマキの色彩が否めず、財源も税収上振れや基金の取り崩し、国債頼みという曖昧さが目立つ。

トランプ関税や物価高対策で食料品の消費税率をゼロにした場合、家計負担の軽減は1世帯平均で「年7.2万円」となるが、高所得者により恩恵がある一方で消費喚起の効果は少なく時限措置でも一度、導入すると終えるのが難しい。生活困窮世帯に絞った現金給付の方が合理的だ。

毎月勤労統計の実質賃金指数は前年比マイナス基調が続いているが、GDP統計の実質雇用者報酬を1人当たりで見れば、直近の2024年10~12月期の前年比2%増を含め3四半期連続でプラスだ。今春闘も昨年同様5%台の高い賃上げが見込まれ、日本経済は“デフレ脱却宣言”ができる状況だ。

2025年の日本経済は、春闘の好調が続き4%台の賃上げが予想されるほか、児童手当拡充など所得環境の好転で個人消費がプラスに転じ、実質GDP1.6%の成長が見込まれる。ただ、米トランプ新政権の関税引き上げや対中投資規制などの政策次第ではマイナス成長もあり得る。

少数与党となった石破政権は積極財政を掲げる野党の国民民主党との「政策協力」で合意したが、日本経済はデフレから脱却しつつあり大規模な経済対策は不要だ。低所得層などへのプッシュ型支援のインフラ整備や労働生産性向上などの供給力強化での連携が重要だ。

歴史的な円安の流れは、今年夏に転換点を迎えたとみられる。これまでの円安は輸入コスト上昇などのマイナスが大きかった。今後、10円程度の円高ドル安が進めば24年度の成長率は0.1%程度押し下げられるが、景気回復の基調は維持される。しかし購買力平価では1ドル=90~120円で、ここまで円高が進むと話は違ってくる。

岸田首相が「酷暑乗り切り緊急支援」として打ち出した電気・ガス料金の補助再開やガソリン補助金の年内継続などの追加物価高対策は、6月から始まった「定額減税」に屋上屋を架するものだ。追加のエネルギー高対策をしなくても減税は家計の可処分所得を下支えすると試算され、緊急支援策の政策目的は曖昧だ。

2023年度の貿易収支は▲5.9兆円で3年連続の赤字となったが、直近10年で黒字は3年間だけだ。「赤字体質」の定着は電気機械の国際競争力の顕著な低下と資源高・原発停止によるエネルギー輸入の増加が2大要因だがデジタル赤字拡大などサービス収支も含め、赤字基調は続きそうだ。

個人消費の3四半期連続マイナスは、90年代末の金融危機とリーマン・ショック前後の過去2回だけだ。今回は実質賃金下落が続くことが主な原因だが、春闘での高い賃上げを機に24年7~9月期には前年比でプラスに転じると予想される。人手不足もあって賃金上昇は続き消費も回復に向かう見通しだ。

2024年の日本経済の実質GDPは、コロナ禍から経済が正常化した23年比で1.3%の成長が見込まれるが、春闘などでの賃上げ、日銀の金融政策正常化の進捗や為替動向、さらには米中の対立激化や景気減速など、5つのポイントが鍵を握る。

所得減税は家計に「コロナ貯蓄」を含め高水準の金融資産がある中で必要性や費用対効果の低い政策だ。他方で税収増でも2025年度PB黒字化のめどは立っていない。今後、さらなる金利上昇が予想される中、優先すべきは膨張した財政を「平時」に戻すことだ。

岸田首相が掲げた2030年代半ばに「最低賃金1500円」は非現実的な目標ではないが、経済状況次第では低賃金労働者で失業が発生したり逆に中小事業者が廃業を迫られたりすることになる。毎年の引き上げには客観的な根拠と柔軟な対応が重要だ。

23日から実施した先端半導体製造措置などの輸出規制は、米国などと連携した事実上の中国包囲網だ。経済安全保障上、過度な中国依存リスクは減らす必要はあるが、資源などの代替調達先確保などとともに投資先として日本の魅力を高めることが重要な課題だ。

植田新総裁の下での最初の政策決定会合で日銀は物価見通しを上方修正したものの「緩和維持」を決めた。慎重なスタートは過去四半世紀で2%物価目標実現の最大の好機を逃がしたくないという裏返しの思いからだろう。

春闘での賃上げ率が大幅に高まりそうだ。30年ぶりの高水準で、記録的な物価高や労働需給の逼迫などを背景に、中小企業でも2%を超えるベースアップ(ベア)率での妥結が相次いだ。

物価上昇は年後半以降、鈍化するとの予想が多いが、企業の価格改定が広がる一方で消費は増えている。企業や家計の行動変化や春闘で3%賃上げが見込まれる状況では、ゼロインフレ経済に戻るシナリオは怪しくなった。

日本銀行の金融政策は、黒田東彦総裁の退任で新たな局面を迎える。イールドカーブ・コントロール(YCC)は海外の金利上昇や国内の物価高もあって制度疲労を起こしている。日銀は長期金利の変動幅の拡大や共通担保資金供給オペの拡充などを実施したものの、市場機能は十分に改善していない。

春闘での賃上げが、約40年ぶりの高インフレを受けて加速しそうだ。毎月勤労統計調査における一般労働者(≒正社員)の2022年11月の所定内給与は、物価変動分を調整した実質額で前年比▲3.0%だった。消費増税の影響を除くと、比較可能な1994年1月以降で最大の下落率だ。人手不足が深刻化する中、生活水準を維持するため、労使共に賃上げに前向きな姿勢を示している。

23年の日本経済はコロナ禍からの回復によるサービス消費増加などで実質GDPは前年比1.9%増と欧米を上回る見通しだが、利上げが進む米国経済が深刻な景気後退に陥ればマイナス成長の可能性がある。

エネルギー価格の高騰を受け、岸田政権は2022年度第2次補正予算案に6.1兆円のエネルギー高対策費を盛り込んだ。電気と都市ガスの料金を引き下げるとともに、ガソリン補助金を延長する。
